近年、新形態のAIシステムとして「アダプティブAI」の注目度が高まっています。アダプティブAIは、従来のAIが持っていた弱点や制約を克服し、より柔軟かつ効率的なAI活用を実現する技術です。本記事では、このアダプティブAIについて、その特徴やメリット、活用例などをわかりやすく解説します。
アダプティブAIシステムとは?
アダプティブAIとは、自己学習能力や自己調整能力に優れており、変化する新しい環境にも「適応(adapt)」できるという特性を持ったAIです。
従来のAIは事前に開発者が用意したトレーニングデータにもとづいて機能を発揮するのが一般的でした。しかし、アダプティブAIはそれに加えて、稼働中に生じた新しい環境・入力データの変化に応じて自ら最適化する能力を有しています。この適応能力によって、アダプティブAIは現実世界の変化へ迅速に対応し、持続的に自己成長することが可能です。
このアダプティブAIの特性がとりわけ役立つとされているのは、自動車の自動運転のように、高度な自動化技術を要する場面です。様々に変化する状況に対しても自己学習・自己調整が可能なアダプティブAIは、自分自身で柔軟に環境へ適応し、高度な自動化を実現できます。
アダプティブAIは、汎用人工知能(AGI)のように全ての知的行為を人間と同等以上に実行できるものではありませんが、それでも従来型のAIに比べて遥かに優れた柔軟性を持っています。なお、アダプティブAIは比較的新しい技術なので、その定義はまだ完全に定まりきっておらず、「適応型人工知能」や「適応型AI」などと呼称されることもあります。
従来型AIとアダプティブAIの違い
アダプティブAIは、従来型AIの持つ以下のような弱点を克服できるとものと期待されています。
- 学習範囲外の状況に対応できない可能性がある
- 運用開始後に得られた知識は学習に用いられない
- 学ばせるジャンルを変更すると過去に学んでいたジャンルについて忘れる
弱点1と弱点2は密接に関係しています。従来型のAIは運用前に与えられたトレーニングデータのみを頼りに作動するので、そこで学習されなかった状況へ対応するのは困難です。これに対してアダプティブAIは、運用開始後にも知識の自己学習・自己調整を続けるので、運用すればするほど柔軟な対応が可能になり、性能が成長していきます。
弱点3は、「破局的忘却」とも呼称される現象で、新しい知識の取得と共に、以前の知識がAIから失われてしまうことです。これは例えば、犬と猫の識別ができるように学習させたAIに、今度は鳥を識別できるように学習させてみると、それまではできたはずの犬と猫の識別ができなくなってしまうことを指します。
この破局的忘却は、AIの柔軟かつ効率的な学習や活用を大きく阻害する原因ですが、アダプティブAIの場合はその心配がなく、既存の知識の上にどんどん新しいジャンルの知識も積み重ねていけます。
アダプティブAIを構成する3つの要素
アダプティブAIを特徴づける重要な要素は主に3つあります。
第一の特性は堅牢性(Robustness)です。この特性は、アダプティブAIが未知の状況やデータに対しても適切な推論や対応を行える能力を指します。従来型AIの弱点であった学習範囲外の状況への対応力が、この堅牢性によって大幅に向上しています。
第二の特性は敏捷性(Agility)です。これは状況の変化に迅速かつ柔軟に適応する能力を意味します。変化の激しい現代のビジネス環境において、この特性は堅牢性と共に大きな価値を持ちます。
そして最後の特性は効率性(Efficiency)です。AIの動作や学習には多くのリソースが必要になりがちですが、アダプティブAIはこれを最小限に抑えつつ、高い性能を発揮できます。
これら3つの要素は、それぞれが相互に連携しながら、アダプティブAIの基盤となっています。
アダプティブAIが注目されている背景
近年、アダプティブAIが多くの企業から注目を集めているのはなぜでしょうか。その根本的な理由としては、先述の通り、アダプティブAIが従来型AIの持つ弱点を補い、ビジネスに多大な貢献をすることが期待されているからです。
例えば、アダプティブAIを活用すれば、時代と共に多様化しているユーザーのニーズへ柔軟に対応しやすくなります。昨今では個々のユーザーに合わせてパーソナライズされたエクスペリエンスを提供するOne to Oneマーケティングが重要になっています。アダプティブAIはこのマーケティング手法をより効果的にし、企業の競争力強化に寄与すると期待されています。
さらに、経営上の意思決定を改善する手段としても、アダプティブAIにかかる期待は大きいです。VUCA時代といわれるように、昨今のビジネス環境は変動が激しく、経営者にはその都度の状況にあわせた素早い意思決定が求められます。その点、堅牢性や敏捷性に優れたアダプティブAIを役立てることで、経営上の意思決定の速度や精度を向上できます。
このような背景を受け、著名な調査会社ガートナー社も、アダプティブAIの将来性に関して注目すべき発言をしています。2023年初頭にガートナー社は、2026年までにアダプティブAIシステムの構築・管理を実現できた企業は、継続的にAIモデルを運用する上で、競合他社のパフォーマンスを25%も上回る可能性があるという予想を発表しました。この発言は、アダプティブAIが持つ経済的価値やビジネスへの影響力を如実に示しています。
(参照元:https://www.gartner.co.jp/ja/articles/why-adaptive-ai-should-matter-to-your-business)
アダプティブAIが及ぼす3つのメリット
アダプティブAIは、ビジネスにおいて特に以下のようなメリットをもたらすことが期待されます。
利用者の満足度が向上する
アダプティブAIは、利用者の状況やニーズにあわせて瞬時に適切なレスポンスやアドバイスを提供できます。これによって、利用者やAIをサービスとして利用する顧客は、一貫性のある高品質なサービスを受けることが可能です。特に現代のビジネス環境において、ユーザーエクスペリエンス(UX)の向上は企業のブランド価値や顧客ロイヤルティの強化に直結するため、その価値は計り知れません。
変化にリアルタイムで適応できる
アダプティブAIは社会の変化や新しい情報に対してリアルタイムで適応可能です。特に、市場環境やユーザーのニーズが頻繁に変わる現代において、この能力は極めて大きな価値を持ちます。市場投入後の変化や新しい情報に柔軟に対応できるため、企業の競争力を促進できます。
積み上げ学習が可能になる
従来型AIは破局的忘却という問題を抱えていましたが、アダプティブAIではこのリスクが大幅に軽減されています。アダプティブAIは、過去に習得した情報を維持したまま新しい知識を追加できるため、積み上げ型の学習を実現可能です。重要な情報を保持したまま最新の情報を反映できるようになるので、機械学習や運用にかかる効率性を改善しつつ、精度や柔軟性も向上できます。
アダプティブAIの活用が期待される分野
アダプティブAIは、その多様な強みを背景に、多岐にわたる分野で活用されていく見込みです。以下では、その中でも特にアダプティブAIがその力を発揮すると期待される分野を紹介します。
One to One マーケティング
One to Oneマーケティングとは、ユーザー1人1人に個別最適化されたマーケティングのことです。アダプティブAIは、ユーザー個々の特性や行動履歴を元に、最適なサービスやコンテンツを提供できます。例えば、動画配信サービスに活用すれば、ユーザーの視聴履歴や好みにあわせて、次に視聴したいであろうコンテンツを的確にレコメンド可能です。
チャットボット
従来のチャットボットは通常、あらかじめ学習したデータやシナリオに基づいて回答を生成していました。しかし、アダプティブAIを搭載したチャットボットは、相手のニーズや質問内容をリアルタイムで把握し、それに応じた適切な回答を提供可能です。また、過去の会話データを知識として蓄積し、それを活用することで、より人間らしいコミュニケーションを実現できると期待されています。
自動運転技術
安全な自動運転を実現するには、歩行者の動きや天候の変化、他の車両の動きなど、多くの変数を考慮しなければいけません。アダプティブAIを活用することで、これらの変数をリアルタイムで学習し分析できるようになり、より安全で効率的な自動運転が可能になると考えられています。
まとめ
アダプティブAIは、その自己学習・自己調整能力によって、従来型のAI以上に様々な状況へ対応できます。その活用範囲は、経営戦略の策定からマーケティング、自動運転技術まで多種多様です。変動の激しいVUCA時代において、アダプティブAIの重要性はますます高まるでしょう。
- カテゴリ:
- デジタルビジネス全般