AI TRiSMとは?
言葉の意味や注目されている背景について解説

 2023.11.17  2024.03.05

昨今、AIの安全性や信頼性に対する問題意識が高まっている中で注目されているのが、AI TRiSMという概念です。企業にとって、AIが潜在的に持つリスクや信頼性の問題は軽視できません。本記事では、AI TRiSMの意味や背景、その導入に必要なポイントについて分かりやすく解説します。

AI TRiSMとは? 言葉の意味や注目されている背景について解説

デジタル化を推進すべき”23の領域” とは?

AI TRiSMとは?

AI TRiSMとは、「AI(人工知能)」「Trust(信頼性)」「Risk(リスク)」「Security Management(セキュリティ管理)」の頭文字を取った造語です。簡単に言えば、AIの信頼性や安全性を向上させるためのフレームワークまたは概念を意味します。

AI TRiSMは2022年、アメリカの著名な調査会社ガートナーが2023年の戦略的テクノロジートレンドとして取り上げたことで広く知られるようになりました。ガートナーは、主なトレンドテーマとして「最適化(Optimize)」「拡張(Scale)」「開拓(Pioneer)」の3つを挙げ、AI TRiSMを「最適化」のカテゴリに分類しています。

「最適化」は、企業がテクノロジーの活用を通して、事業のオペレーションやレジリエンスなどを向上させることを意味します。そして、その具体的な取り組みの一つとして挙げられたのがAI TRiSMです。

AI TRiSMは欧米を中心に進んでおり、代表例としてはデンマークのスタートアップ企業の取り組みが挙げられます。この会社は、AIの出力結果を数学的モデルで説明することに成功しました。このモデルは、AIがどのような思考過程を経てその結論に達したのか理解するのに役立つため、AIやそれを利用して開発された製品の信頼性向上に寄与しています。

この例が示すように、AI TRiSMの概念を導入することは、結果として顧客の満足度や需要の増加、ひいては事業の目標達成につながることが期待されます。

BtoC企業向けデジタルマーケティング支援概要
BtoB企業向けデジタルマーケティング支援概要

AI TRiSMが注目されている理由と時代背景

昨今ではコロナ禍などの影響を受けて、経営のレジリエンスが強く求められるようになっており、多くの企業や組織がデジタル技術の導入を急速に進めています。これは最新のデジタル技術の一つであるAI技術についても例外ではありません。AI活用は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で欠かせない鍵です。

しかし、そうしてAIの利用が広がる一方で、AIの持つリスクも次第に明らかになってきました。例えば、ガートナーは、欧米でAIを使用している組織の約41%がプライバシー侵害やセキュリティインシデントを経験しているという調査結果を報告しています。このように、サイバーテロや一般的なデジタルセキュリティ対策に比べて、AI特有のリスク対策に関してはまだ十分に進んでいないのが実情です。

(参照元:https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2022-08-22-gartner-survey-reveals-80-percent-of-executives-think-automation-can-be-applied-to-any-business-decision

このような背景から、AIを安全かつ効果的に活用するためには、AI特有のリスクに対する理解と対策を進め、その信頼性を高める取り組みが不可欠であるとの認識が高まっています。その結果、AIの信頼性を高めるための新しい概念としてAI TRiSMが注目されるようになりました。

AI TRiSMを構成する4つの柱

AI TRiSMの概念は、AIの適正な利用と管理を促進する4つの柱によって支えられています。

説明可能性

AIの判断プロセスや背後にあるロジックが不明確であることは、AIの信頼性に疑いを生じさせる大きな原因です。説明可能性とは、この問題を解決するためのアプローチです。AI TRiSM では、AIがどのような思考プロセスやロジックを用いて答えを導き出したのか、人間が理解可能な形で明確化することが求められます。

ModelOps

ModelOps(Model Operationalization)とは、AIモデルの開発から運用、更新に至るまでのライフサイクル全体を最適化し、効率的に運用するための考え方や手法のことです。AI TRiSMは、このModelOpsによって、AIモデルの適切なガバナンスやマネジメントを確保することを求めます。

AIセキュリティ

AIモデルが取り扱うデータは、企業の機密情報を含むことも多いので、AIが格納・運用されているサーバやデータベースなどは、外部からの攻撃に対して強靭でなければなりません。そのため、AI TRiSMでは、不正アクセスやデータの異常検知・早期対処などにより、サイバーテロなどの悪意ある攻撃からAIを保護することが重視されます。

プライバシー

情報漏洩を防ぐには、外部からの攻撃だけでなく、運用側の問題(内部不正)に備えることも必要です。そのため、AI TRiSMでは内部不正に対しても対策することを求めています。プライバシーの保護は、その中でも特に優先すべき要素です。

AI TRiSMの導入に必要な5つのポイント

AI TRiSMを導入するには、単に技術的な側面だけでなく、組織全体での取り組みが必要です。以下では、AI TRiSMを効果的に導入するための5つのポイントについて解説します。

専門の部門を設置する

AI TRiSMを推進するためには、専門の部門やタスクフォースを設置することが重要です。これらは、AI TRiSMの取り組みを組織全体で進めるための管理や調整を行います。構成メンバーはセキュリティやデータサイエンティストなどITの専門家だけではなく、法務やコンプライアンスなどに精通した多様な人材を集めましょう。

リスクを洗い出し対策を実施する

AI導入の目的や利用シナリオに応じて、どのようなリスクが考えられるかを詳細に洗い出すステップも欠かせません。例えば、顧客情報を取り扱うシステムであれば、プライバシーの侵害リスクを警戒する必要があるため、それに関連する対策を十分に計画・実施することが求められます。

説明可能性を確保する

AIの思考プロセスや判断根拠を明確に説明できるようにすることも重要です。AIモデルの回答が論理面でも倫理面でも信頼に足ることを保証することは、企業と顧客を守ることにつながります。

データを適切に管理・運用・保護する

AIの機能やパフォーマンスは、トレーニングデータの質に大きく左右されます。したがって、データの適切な管理・運用はAIの正確さや信頼性を保持する上での必須事項です。データの品質を確保するためのクレンジングや前処理、そして定期的なデータの更新や再訓練は、AIの精度を維持・向上させるために欠かせません。
データの不正な持ち出しや改竄を防ぐために、暗号化やアクセス制御などを実施し、データセキュリティを強化することも必要です。

AIの監視とメンテナンスを行う

AIモデルには、常に監視とメンテナンスが必要です。運用中のAIモデルのパフォーマンスをリアルタイムで監視することで、問題を早期発見・早期修正が可能となります。特にデータを更新する際は、その変更がAIモデルの出力に与える影響を把握し、必要に応じて再訓練や調整を行わなければなりません。エラーや異常の自動検知ができれば、迅速かつ効率的にトラブルへ対処しやすくなります。

まとめ

AI TRiSMは、デジタル化が進む現代のビジネス環境において、AIの安全性と信頼性を高めるための枠組みとして注目を集めています。AI TRiSMを取り入れることで、企業はAIの持つ潜在的なリスクを軽減すると同時に、その利益を最大化できます。企業や組織がこれからの時代にAIを安心して活用していくために、AI TRiSMの理解と導入は非常に重要です。

CTA

RECENT POST「デジタルビジネス全般」の最新記事


デジタルビジネス全般

「5年先、10年先を見通す次世代の仮想化基盤 Red Hat OpenShift Virtualization」

デジタルビジネス全般

ローコードとは?注目される背景や導入のポイントを解説

デジタルビジネス全般

OpenAI一強時代が到来?北米のトレンドから見る「AI市場」【後編】

デジタルビジネス全般

OpenAI一強時代が到来?北米のトレンドから見る「AI市場」【前編】

AI TRiSMとは? 言葉の意味や注目されている背景について解説
CTA

RECENT POST 最新記事

CTA

RANKING人気記事ランキング


OFFICIAL SUPPORTER