本記事では、デジタルワークスペースの概要、注目されている背景についての紹介および導入のメリット、ユースケースなどを解説します。導入に必要なシステムの一覧や環境構築の流れ、導入事例についても説明しますので、自社への導入を検討している方はぜひ参考にしてください。
デジタルワークスペースとは
デジタルワークスペースとは、アプリケーションやデータ、仮想デスクトップなどを統一的に制御するために設計されたテクノロジーフレームワークです。ユーザーは場所やデバイスの制限なしに、オフィスと同じ業務ができる環境やデータにリアルタイムでアクセスできるようになります。
デジタルワークスペースを導入すれば、業務で使用するアプリケーションがオンプレミスかクラウドのどちらにあったとしても関係ありません。BYODや企業所有のデバイスにセキュアなリモートアクセス環境が提供されます。使用するデバイスの種類に関係なく、一貫した業務環境を全ユーザーが利用できます。これは、アクセスできるデバイスの制限がなくなるということでもあります。また、上手に活用することで、企業が所有するデジタルリソースを一つの仮想スペースに集められます。リソースを集約し一元化することで、管理を1カ所にまとめて簡略化できるのです。実際に管理する時は、専用のクラウドベースアプリケーションを利用して集約したリソースにアクセスします。アプリケーション自体も様々なデバイスに対応しているのが一般的です。
デジタルワークスペースによくある機能として、特定のデバイスに依存しない統合的な管理コンソール、SSO対応、Web閲覧・SaaSアプリケーションアクセス時などのセキュリティの強化、業務環境の仮想化によるリモートアクセスの実現、ワークフローの自動化などがあります。
デジタルワークスペースが注目される理由
スマートフォンの普及やITツールの進化、クラウドの登場など、デジタル技術は継続的に進歩しています。デジタルワークスペースが注目されるのは、時代の要請であるとも言えるでしょう。また、新型コロナウイルスの流行によって早急な働き方改革が迫られ、リモートワークの普及が急激に進んだ影響も大きいです。
リモート環境に対応する企業では、業務のために複数のデバイスを利用することが多いはずです。それに伴い、リモートを前提にした業務環境を整備する必要があり、様々なデバイスや接続方法をサポートしているソリューションの必要性が高まっています。そこで今、対応できるエンドポイントの幅が広く柔軟性があるということで、ニーズに合致するデジタルワークスペースが注目されているのです。
リモート環境以外では、競争力を高めるためにDXの推進を目指す企業が増加している点も注目の理由になっています。近年、優位性を得るために多くの企業がDXに取り組んでいます。デジタルワークスペースを導入することは、時間や場所にとらわれない自由な働き方の実現と社内横断的な情報共有、従業員同士の強固な連携につながります。これによって業務の効率化やビジネスアイデアの創出を促す効果が期待できます。また、パソコンなどのモノを購入してOSアップデートなどのランニングコストを払い続けるよりも、デジタルワークスペースのような仮想環境を構築する方がコストを抑えられる上に情報漏洩リスクも低くできるという考え方もあります。
2019年に施行された働き方改革関連法の影響もないとは言えません。人々の価値観の多様化とワークライフバランスが求められる社会がある以上、企業も時代に合わせた労働環境を構築する必要があります。これまでと違い、より少ないリソースで成果を出すためにも、業務改革が必要となります。そのため、多様なワークスタイルの実現や社内の情報共有の促進など、様々なメリットが得られるデジタルワークスペースの活用がカギとなるでしょう。
デジタルワークプレイスとの違い
デジタルワークスペースとよく似た言葉でデジタルワークプレイスがあり、同じ意味の言葉のように使われることも多いです。実際のところは意味が似ているとは言えず、異なるものだと考えた方がよいでしょう。
言葉を比較してみると、まずワークプレイスは職場という物理的な空間を指します。仕事のチームメンバーが集まってアイデアを出したり、息抜きで雑談をしたりするような人が集まる場のことです。固定的であり、リモートワークを含む従業員同士のコラボレーションに適したプラットフォームとして組織内で機能します。
一方、ワークスペースは従業員が仕事をする時の周囲環境のことを指します。オフィス以外では自宅のワークデスク、コワーキングスペース、出張で利用する空港ラウンジなどが該当します。個人用の空間という意味が強いです。個人と組織のニーズやビジネスの発展に沿ってカスタマイズされるため、頻繁に変化します。業務の進行で必要なツールなどはどちらも共通しています。
それぞれがデジタルとなっても、基本的に対象は同じです。デジタルワークプレイスはデジタル化された業務環境全体を指し、デジタルワークスペースは、主に個人を対象としたデジタル業務ツールやソフトウェアを指すと考えることができます。
デジタルワークスペースのメリット
デジタルワークスペースを導入することによって組織と従業員に良い影響があります。まず、従業員に及ぼすメリットを見てみましょう。在宅勤務という働き方が従業員に定着しているという想定ですが、生産性という点で見ると、在宅勤務をする従業員の方が仕事をしやすい場所と時間帯を選べるため、生産性が高くなる傾向にあります。離職率にも影響があり、在宅勤務の従業員の方が雇用主への満足度が高くなって離職しにくいです。ワークライフバランスが取りやすい環境は人が離れにくく、優秀な人材も定着しやすくなると言っていいでしょう。
組織が得られるメリットを見ると、デジタルワークスペースの導入によって従業員が顧客の問題解決に必要なアプリケーションに素早くアクセスしやすくなります。これにより、業務の効率化がそのまま顧客体験の向上につながります。ほかには、ソリューションがテクノロジーに依存するのを避けられるというメリットもあります。デジタルワークスペースがあれば、セキュリティやユーザーの使用感を損なわずに新テクノロジーを導入できます。さらに、クラウド、Web、SaaSなどのアプリケーション全般を一つに統合して管理できるため、従業員は場所に縛られずに必要なツールにアクセスできます。
セキュリティの強固さも環境の構築では重要な要素です。デジタルワークスペースを使用すればネットワークトラフィックを包括的に可視化できるため、これまで以上に簡単に外部や内部に存在する脅威に先手を打って対処できます。SSOに対応するため、ユーザーが管理するパスワードの数を減らして管理上のリスクを低減させることも可能です。
業務の中心をデジタルワークスペースに変えると、コストが大きくなりがちなオンプレミス環境を構築する必要性が低くなります。コスト削減にもつなげられるでしょう。
デジタルワークスペースのユースケース
ハイブリッドワークで活用した場合では、リモート環境でどんな場所から従業員が勤務するとしても、常にセキュアな接続を介してのアクセスに変わります。例えば、出張先のホテルにあるWi-Fiを利用して仕事をする場合でも、セキュリティリスクに対応するアプリケーションやデータのみを利用した仕事ができるということです。自宅から機密性の高い情報を参照する場合でも、瞬時にセキュアなアクセスになります。
ナレッジワーカーのユースケースでは、プロジェクトのために重要な機密情報や知的財産を保護しなければいけない時もあるでしょう。そうした時もデジタルワークスペースがあれば、全コンテンツをデフォルトで暗号化したりアクセス制限を付けたりできるため、意図しない情報漏洩を防止することが可能です。許可したチームメンバーや特定の外部ユーザーだけがコンテンツを参照できるようにもできます。
契約社員のユースケースではどうなるでしょうか。多くの企業が契約社員の力を借りながら自社のビジネスを発展させていますが、正規の従業員でない関係上、管理が適切にできていないことも多いはずです。その場合、アプリケーションやデータのアクセス権を契約社員に渡すのがリスクになることがあります。しかし、デジタルワークスペースを利用することで固有のワーカーにシンプルな方法でセキュアなアクセスを提供できるようになります。ほかの従業員との連携や生産性を向上させるのに役立つでしょう。
デジタルワークスペース実現に必要なシステム一覧
デジタルワークスペースは、多様なワークスタイルの実現と業務の生産性向上に役立ちます。そうした環境を社内に新しく構築していく際に必要なシステムについて、以下に一覧で紹介します。
オンライン会議システム
遠隔勤務が可能になるとオンラインでコミュニケーションを取る手段が必要になります。そこで、第一に求められるのがオンライン会議システムです。社内会議はもちろん取引先との商談などにも活躍します。
チャットツール
リモートワークが社内で一般的になれば、従業員もそれぞれ違う場所で仕事をすることになります。物理的に異なる場所にいるため、従業員同士がコミュニケーションを取るにはチャットツールが欠かせません。メールでもやり取りはできますが、スピード感や気軽さ、ちょっとした報告や反応を返す場合はチャットツールの方が使いやすいです。
クラウドタイプのファイルサーバ
オフィス以外で仕事ができるようになったら、業務データへのアクセスもどこからでも自由にできる必要があります。そのためには、機能やセキュリティなど様々な面でクラウドが便利です。ファイルを一元管理できる、複数人の同時編集に対応する、社外ユーザーとの情報共有がしやすいなどのメリットがあります。
ゼロトラストのセキュリティ環境
環境構築を進める企業が必ずと言っていいほど心配するのはセキュリティです。情報漏洩が起きてから対処するのでは遅いため、慎重になるのも当然ではあります。
最近では、「安全という前提を初めから設定しない」「信頼せずに常に検証を行う」というゼロトラストという考え方が普及しつつあります。ゼロトラストの考え方を適用すれば、仕事をする場所がオフィスでも、自宅であってもリスク面でそれほど違いはありません。ほかにもエンドポイントセキュリティやセキュアなアクセス方法の確立など考えることは多くありますが、ゼロトラストセキュリティの活用も検討しながら、強固なセキュリティ体制を構築していく必要があります。
環境構築の進め方
一般的に言われるテレワーク、リモートワーク環境とは、仮想化ソフトを利用してプライベートクラウドあるいはパブリッククラウド上に複数の仮想マシンを稼働させて、ユーザーごとにデスクトップ環境やクラウドストレージを提供する仕組みのことを指します。ユーザーは提供された仮想デスクトップを通じて、自宅や外出先など様々な場所からオフィスと同じ業務が行える環境にアクセスして仕事を進められます。
リモートワークが導入されていない現場には、次のようなよくある課題や要求が隠れていることが多いです。例えば、業務効率やワークライフバランス上の理由から、場所の制限なくどの端末からでも業務が進められる環境がほしいという要望があることが多いです。
ほかには、導入検討段階の課題として、短期間の試行錯誤で迅速に本番環境へ展開したい、安全と安定が確立している環境が必要、従業員が実際にリモート環境を活かしているのか、満足度はどれくらいか知りたいといった諸課題があります。もし挙げたことに心当たりがある場合は、環境の導入で解決する可能性が高いです。
社内にリモートワークという働き方を普及させるには、環境構築を進める必要があります。簡単に導入のロードマップを示すと、1段階目はネットワーク環境の準備から始まり、2段階目でクラウドVDIのPoC環境導入、3段階目はクラウドVDIの本番環境導入、最後の4段階目で運用と可視化という流れで進めていくことになります。各段階での動作確認はもちろん、安定して運用できるかどうかの確認も欠かせません。
導入後の効果として、従業員所有のパソコンや社給端末などの様々なデバイスから仮想化した業務環境へアクセスできるようになります。端末は自由化しますが、大切なユーザーデータはデータセンターや自社専用のクラウドに保存される仕組みです。端末にデータは保存されません。端末には画面情報のみが送信されるため、情報漏洩リスクを回避できます。
そして、クラウド上の仮想環境リソースは、自由に選択可能で変更も柔軟にできます。ビジネスの状況や処理負荷状況に応じて拡張と縮小をリアルタイムに反映可能です。物理サーバと違い、スペックの拡張に大掛かりな増設作業がいらず、リソースの配分も素早く効率的に行えます。ハードウェアのリプレースコストも抑えられて経済的です。
セキュアで柔軟テレワーク環境を構築した事例
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)が取り組んだケースの中に、クラウドVDIを利用して従業員規模約1万人が利用するシンクライアント環境にセキュアで柔軟なテレワーク環境を構築した事例があります。環境構築の主な目的は、業務の効率化とBCP、DRESS対策です。
新しい環境を導入する前、3つの主な課題がありました。1つはシンクライアント環境の基盤となるOSのサポートが終了するため根本的な基盤刷新が必要だったこと、2つ目が環境の性能維持と運用コストの適正化の継続が求められていること、3つ目は新基盤の保守性や運用管理性を高めることです。これらの事前に洗い出した課題を解決するためにクラウドサービス、Azure Virtual Desktop(AVD)、Citrix Cloudを採用しました。
その結果、AVDの採用によって初期展開を約2ヵ月という短期間で実現し、クラウドサービスの活用で柔軟なリソース拡張や最新機能の利用ができるような環境構築が可能になりました。Citrix Cloudの利用でクラウドVDIの効率的な保守と運用管理を行えるようにもなっています。わずかな期間でリモート環境の導入に成功し、運用効率の向上に貢献しました。
CTCは2019年から第3次ワークスタイル変革に取り組んでおり、本事例もこれまで取り組んできた全体の中の一つに過ぎません。「より安全に、より自由に」をキーワードにして、今後もワークスタイルに応じた様々な環境の構築に継続して対応しています。
まとめ
デジタルワークスペースの導入によって、場所やデバイスの制限なく業務に必要なデータやツールなどにアクセスできるようになります。従業員は好きなデバイスを使い、セキュアな接続で業務に必要なリソースへアクセス可能です。
導入する際は、業務を円滑に進めるためにも対面コミュニケーションに代わるオンライン会議システムやチャットツール、クラウドファイルサーバ、ゼロトラストに基づいたセキュリティ体制の構築などが必要です。
環境の構築により従業員の生産性や満足度が向上するほか、業務の効率化に伴う顧客体験の向上、セキュリティの強化などの効果も期待できます。ゼロトラストに基づくセキュアな接続が実現可能なため、情報の機密性が重要なハイブリッドワークやナレッジワーカーの業務利用にも適しています。
デジタルワークスペースが注目されてきている理由は、IT技術の進歩、リモートワークの普及、DXの推進など様々な流れがあった結果によるものです。利便性や生産性の向上などを目的に導入を進めている企業は増えているため、検討中の場合は本記事を参考にしながら環境構築に取り組んでみてください。
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