製造業において、重要なウェイトを占める工程が外観検査です。品質の保証および維持・向上を目的とし、製品に欠陥がないかどうかを判定します。
外観検査の流れや手法などを見直すと、検査の大幅な効率化が見込めるようになるため、企業に合った方法で見直しを進めたいものです。そのための具体的な方法を、本記事で解説します。
外観検査とは
外観検査とは、部品や製品などを外観から確認し、汚れ・欠陥・歪みなどがないかどうかを確認する検査を指し、多くの製造業で行われている工程です。大まかな検査項目は後述しますが、細かな検査項目は、企業で生産している部品や製品によって大きく異なるため、仕様書を作成することが一般的です。仕様書に沿って検査を進め、定められた規定値に製品や部品の品質が適合しているかどうかを、人間もしくは機械によって判定します。
仕様書のほかに、手元で実際の製品を確認しながら検査ができるよう、見本を用意するケースが大半です。見本には、次のような種類があります。
- 限度見本
良品と不良品の境目を表した製品の見本を指します。 - 不良見本
限度見本のうち、不良品と判断される条件を含んだ製品の見本を指します。 - 標準見本
標準品質を担保している製品の見本を指します。
外観検査の目的
外観検査を行う大きな目的として、部品や製品の生産工程において発生する一定数の不良品を排除し、外部への流出を防ぐ点が挙げられます。ただし、それだけでなく、外観検査の重要な目的は、品質の保証および品質の維持・向上です。
品質の保証
不良品が発生する工程は、設計段階や製造工程などさまざまであり、再発を防止するためにどの工程で不良が発生したかを突き止めなくてはなりません。不良品の発生件数を下げることで、基準や仕様を満たした一定以上の品質を保てるようになるため、製品の品質が保証できるのです。よって、消費者に対する品質の担保も可能となります。
品質の維持
不良品を発生させないためには、仕様書に沿った適切な作業が求められます。作業の手順や設備メンテナンスの流れなどを正しく進め、生産を行うことで、品質の保証に加え安定性を維持した製品の生産につながります。そのうえで、業務効率化や生産コストの削減なども見込めるようになります。
品質の向上
品質を維持したうえで、さらなる向上を目指すには、外観検査の結果を設計および製造工程にフィードバックし、改善する必要があります。うまく改善ができれば、不良品の発生を抑える結果にもつながり、検査の件数や工程も簡略化できるため、品質・生産性の両面において向上が見込めるのです。
外観検査の種類
外観検査の種類は、大きく4つに分けられます。それぞれの概要や、メリット・デメリットを紹介します。
インライン検査
生産ライン内に、対象物を検査・計測するための装置を設置し、基準値を満たしているかどうかを検査する方法です。外観検査のほかにも、内部の傷や組成などの検査にも用いられており、4つの検査のうち最も品質保証がしやすいことから、多くの企業でインライン検査が導入されています。
インライン検査を行う方法の一つとして、事前に良品と不良品のサンプルをカメラに設定し、不良品が見つかった場合は自動で良否判定を行うものがあります。これは、画像処理能力や測定技術などの向上により、可能となった検査です。
インライン検査のメリットとして、生産ラインでリアルタイムに異常検知ができる点や、全数検査に適している点、人件費を削減できる点、などが挙げられます。その反面、導入コストが高額になりやすい点や、生産ラインのレイアウト変更が必要となる可能性が高い点、設備の設計や導入に手間がかかる点などがデメリットです。また、目視によるインライン検査では、不良品を見逃してしまう恐れもあります。
オフライン検査
インライン検査とは反対に、生産ラインに含まれない検査工程で行う検査を、オフライン検査と言います。インライン検査の実施が困難な、複雑な検査や生産ラインで導入されることが一般的です。インライン検査は自動・オフライン検査は手動と考えると分かりやすいでしょう。
オフライン検査が導入されるケースには、生産ラインを複数備えている工場が例に挙げられます。この場合は、すべての生産ラインにインライン検査機を導入することが難しく、抜き取りによるオフライン検査を実施する事例があるのです。オフライン検査は、精度の高い検査が実施可能である反面、生産ラインから外れて手作業で行う工程が多いことから手間と時間がかかります。
抜き取り検査
検査対象となる製品から、一部の製品(サンプル)を決められた方式で抜き取り、ロットの品質基準に達しているかどうかを検査する方法です。生産量が多く単価が安い製品や部品(ナット・ネジなど)は、すべてを検査するのは不可能であるため、この方式によって検査を行うことがほとんどです。
抜き取り検査では、すべての製品を検査せず、検索個数が少ないため、検査にかかる時間や費用を節約できます。また、検査項目を増やし、細かい範囲まで検査することも可能です。
一方で、一部の製品のみを検査する方法から、全製品の品質を保証するのは大変難しくなります。このため、抜き取り方法を精査し、品質の担保に努めなくてはなりません。
全数検査
抜き取り検査とは反対に、対象製品をすべて検査する方式を指します。高額な製品や、不具合によって重大な危害が及ぶ可能性がある製品、全数検査にコストや時間がかからない製品などを検査する方法として用いられています。
全数検査を行う製品は、自動車のエアバッグやブレーキ、医療機器、食品などがその一例です。これらは全て、不良品が一つでも市場に出回ってしまうと、人の生命に危険が及ぶおそれがあるためです。全数検査の実施により、すべての製品の品質を保証できるメリットがある一方で、コストと時間がかかるデメリットもあります。
外観検査の基本的な検査項目
外観検査における基本的な検査項目は、どの生産段階で行われる検査なのかによって変わってきます。それぞれの段階における検査項目を見てみましょう。
製品および部品が作られた段階では、仕様・形状・構造などの検査が行われ、主に次の項目が検査されます。
- 形状(決められた形状との違いや、変形・欠損など)
- 寸法(決められた寸法との違いなど)
- 構造(組み合わせや組み立てのズレなど)
- 色(変色、色ムラ、色目や色調の違いなど)
これらの項目において、規格や仕様書などから逸脱していると、検査に通らなくなります。
次は、製品表面の検査に入り、以下の項目について検査が行われます。
- 表面の見栄え(シワ、凹凸、ツヤ、ムラ、筋、劣化など)
- 傷(表面のキズやスレなど)
- 付着物(異物、汚れ、チリ、ほこりなど)
表面検査は、発生箇所が多岐にわたり、検査する人物によって問題の程度に対する良・不良の境界線が異なるケースも多いことから、基準を決めづらい項目です。しかし、外観検査においては大変重要な項目であるため、基準書を作成すると検査がスムーズに進められます。
製品の完成に近い段階での検査では、次の項目が主に検査されます。
- 組み立ての問題(傷、ズレなど)
- 仕上がりの問題(丁寧さ、バリ、欠け、突起、加工時の治具の跡など)
これらは、見た目の問題だけでなく、製品の品質を高め、消費者が安全に製品を使うために必要な項目です。
外観検査の主な手法
外観検査の主な手法は3つあり、それぞれ特徴が異なります。
目視検査は、以前から一般的に行われている検査手法であり、官能検査の代表だと言われています。人間の五感である目・鼻・耳・舌・皮膚を使い、検査員が見本と製造品を目視で比較し、良否を判断するものです。目視検査最大の課題は、検査結果が検査員のスキルに大きく左右される点であり、検査が属人化してしまう可能性が高いことにあります。これにより、検査品質が安定しないうえ、検査効率も悪くなってしまいます。さらに、検査員を採用・育成・配置するためのコストがかかることも忘れてはなりません。
外観検査装置は、検査員に代わって検査を行う装置を指します。検査ルールを設定し、検査する製品がルールに該当していれば良品・ルールから外れていれば不良品と判断します。検査ルールは、良品をカメラで撮影・画像処理したデータから策定するケースが一般的であり、検査の自動化が可能です。ただし、複雑な判定は困難であるほか、検査項目が多いと装置が対応できない場合もあります。そのため、検査装置を使いながら、検査員が検査を行う現場も少なくないのが現状です。
AI外観検査システムは、目視検査と外観検査装置の利点を両方取り入れた手法です。前もって設定した条件に加え、AIが自らデータの特徴を学習し、良品・不良品を判断できる点が最大のメリットです。外観検査装置のみでは検査が不可能な、複雑な型式や種類の多い製品の判定も可能であり、属人化する心配もありません。これにより、近年ではこのシステムを導入する企業も増えているのです。
外観検査を自動化するメリット
外観検査を自動化し、より高精度に実施するには、検査の見本とすべきデータと検査システムの連携、画像認識AIの活用が不可欠です。これらを適切に行うことで、自動化のメリットをより強く感じられるようになります。生産効率を落とさず、製品の品質を保つには、検査を行う製品の特徴や、連携システムとの関係などをふまえながら、検査を自動化する範囲を決めることが大切です。
他にも、自動化によるメリットは複数あります。検査を自動化するには、設備投資が必要となりますが、設備の導入により製造業全般で課題とされている人材不足の解消が期待できるうえ、人件費の削減も可能となります。さらに、検査員に対する教育が不要となり、検査スピードが上げられるため、業務の効率化や作業時間の短縮が可能です。属人化を防ぐことで、不良品を検出できる割合が高まり、より正確かつ高精度な検査が実現できます。
スマートグラスを導入するとさらに◎
スマートグラスとは、コンピューターとしての処理・表示性能を持ったメガネを指しています。両眼型と単眼型があり、それぞれ次の特長を持っています。
- 両眼型
単眼よりも広い視野を確保でき、3D映像の情報も表示可能です。左右で異なる情報を表示することもできるため、幅広い情報が確認できます。 - 単眼型
両眼型に比べ軽量で、ヘルメットに装着できるタイプもあります。実世界を見ながらスマートグラスも使えるため、比較しながら作業が進められます。
スマートグラスの横に付いたカメラが検査員の視覚と連動して、見えているものと同じ景色が画面に表示されるため、他の検査員に指示を出したり、仕様書に沿った検査が行われているかを確かめたりするのに役立ちます。
また、外観検査の研修を実施する際に、作業中における熟練者の視点の動きをスマートグラスで記録し、効率的な検査方法のノウハウを新人に指導する際に活用されています。
近年では、スマートグラスを使って、音声通話やチャット、カメラ映像の共有、作業記録の録画、ドキュメントの表示、データの参照、音声入力、QRコードによるデータ参照などの作業も可能となっています。
現場効率化のロードマップ
製造業の現場で多く見られる課題として、次の内容が挙げられます。
- 検査作業の正確性や効率性の向上が困難である
- 作業指示や記録が紙ベースで行われており、処理に時間がかかる
- 検査データの不正を防止するために、データをデジタル化したい
これらの課題を解決するには、作業現場のデジタル化を進めることが大切です。デジタル化により、IT環境の構築やペーパーレスなどを促進できます。その上作業ミスなどのヒューマンエラーの回避や、進捗状況の可視化などができるようになることで作業データを分析でき作業の効率化や人員リソースの配置最適化などにもつながります。さらに、記録簿の紛失や記録改ざんなどのリスク軽減にも役立ち、セキュリティ面においても万全な対策が取れるようになるのです。
デジタル化の推進により、現場で作業する作業員が、正確かつ迅速に業務を進められることが最大のメリットと言えます。
まとめ
外観検査は、検査項目や手法が多岐にわたるため、目視検査ではどうしてもすべての不良品を確認できないケースも発生します。属人化を防ぎ、検査の効率化を図るためには、外観検査装置やAI外観検査システムなどを有効活用し、確実な検査ができるような体制づくりが重要です。
適切な外観検査により、消費者に対して品質の保証が担保され、信頼を得られる製品づくりが可能となるのです。さらに確実な検査を行うためには、スマートグラスを活用できます。生産性の改革実現に向けて、作業現場のデジタル化を促進する動きも求められます。
製造業で抱える問題点を解決するためには、検査の自動化を避けて通ることはできません。高まる一方である消費者のニーズに応える製品を世に送り出すため、AIを活用した検査システムの導入も検討されてみてはいかがでしょうか。
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