令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しポイント

 2021.09.15  2023.06.08

電子帳簿保存法が施行されたのは1998年と古く、正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。この法律が定めるのは、それまで原本保存が義務付けられていた各種帳簿や証憑書類(領収書など)が、特例としてデータ化保存を認めることです。それから20年以上、電子帳簿保存法は複数の改正を経て、現在では実用的な法律として多くの企業がそれに準拠しています。では、電子帳簿保存法で領収書や請求書の管理はどう変わるのでしょうか?

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電子帳簿保存法のターニングポイントは2015年・2016年

1998年に施行された電子帳簿保存法は実用的ではないとして、これに準拠する企業は非常に限られていました。また、2005年にはe文書法が施行されたことで、一部内容が緩和(原本のスキャナ保存を認める)されたものの、それでも要件は厳しく日常のビジネスに採り入れる企業はほとんどいませんでした。大きな転換期を迎えたのは、2015年と2016年に施行された電子帳簿保存法改正です。

2015年の電子帳簿保存法改正

2015年にはe文書法で改訂された「スキャナ保存要件」が緩和され、それまで対象外となっていた、取引先と紙で授受する帳簿をスキャナし、データ化して保存できるようになりました。主な内容は以下の通りです。

  1. 業務処理サイクル方式を採用する際に必要とされていた、国税関係帳簿にかかわる「電磁的記録等による保存制度の承認」が不要になりました。
  2. スキャナ保存の際に必要とされていた電子署名が不要になりました。
  3. 保存要件を緩和する一方で、国税の納税義務の適正な履行を確認する観点から、「適正事務処理要件」を満たす必要があります。

2016年の電子帳簿保存法改正

続いて2016年の電子帳簿保存法改正では、「スキャナ保存要件」がさらに緩和されています。以前は解像度200dpi以上のスキャナでの読み取りと、帳簿の大きさに関する情報を保持しなければいけなかったのに対し、800万画素以上のカメラを搭載するスマートフォンでもデータ化による保存が認められました。これに伴い、領収書がA4サイズ以下の場合は、大きさに関する情報が不要になっています。

ただし、スマートフォンで撮影した領収書をデータ化保存する場合は、受領後3日以内にタイムスタンプを付与する必要があり、受領した本人が領収書に対して手書きの署名をするという要件が加わっています。

2021年の電子帳簿保存法改正

2020年に入り、新型コロナウイルス感染症対策として、テレワークや在宅勤務が普及し、各企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、社会環境のデジタル化の変化が加速度的に進んでいます。この流れを受け、経理の電子化による生産性の向上と記帳水準の向上を目的として、以下の改訂が行われ令和4年(2022年)1月1日以後より順次適用されます。

※各電子取引区分に適用される内容は異なります。詳しくは国税庁ホームページ並びに「令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しについて」をご参照ください。

  • 承認制度の廃止
  • タイムスタンプ要件および検索要件の緩和
  • 適正事務処理要件の廃止
  • 優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置
  • 最低限の要件を満たす電子帳簿についても、電磁的記録による保存などが可能
  • スキャナ保存された電磁的記録に関連した不正があった場合の重加算税の加重措置
令和3年度 電子帳簿保存法改正による  電子取引への対応
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データ化保存に対応している帳簿・書類とは?

では、具体的にどういった帳簿・書類がデータ化保存に対応しているのでしょうか?以下に表でまとめました。

<電子帳簿保存法に対応している帳簿・書類>

対象書類

分類

総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金・買掛金元帳固定資産台帳、売上・仕入帳など

国税関係帳簿

棚卸表、貸借対照表、損益計算書、その他決算に関して作成した書類

国税関係書類

(決算関係書類)

領収書(および写し)、契約書(および写し)、請求書、納品書など

国税関係書類

(その他の証憑類)

見積書、注文書など

一般書類

 

<電子帳簿保存法における保存方法の仕分け>

区分

対象書類

電磁的記録による保存

スキャナ保存

帳簿

仕訳帳、現金出納量、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳など

会計ソフトのデータなど

保存不可

書類

『取引関係書類』

注文書、請求書、見積書、契約書、領収書、納品書など

紙で発行した書類の控え

紙で受け取った書類

電子取引データ

『決算関係書類』

棚卸表、賃借対照表、損益計算書など

会計ソフトのデータなど

保存不可

補足を加えますと、自社内で完結する帳簿と決算関係書類のデータ化に関しては、「電磁的記録による保存」のみが対象になっています。これはつまり、会計ソフトなどで入力したデータを保存することにより、決算書や総勘定元帳の印刷及び保管を省略することができるということです。

さらに、帳簿をデータ化保存する際は電子帳簿保存法により「自社で一貫して統一的に電子的な会計データを作らなければいけない」という規定があり、多くの企業で導入されている会計ソフトなどはその要件を満たしていることから、データ化保存のハードルが低くなっていることが分かります。

電子帳簿保存法に対応するためには?

電子帳簿保存法にしたがって帳簿や書類のデータ化保存を実施するためには、以下の手続きを踏む必要があります。

  1. 国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請書を記入
  2. 承認を受けようとする国税関係書類の保存を行う電子計算機処理システムの概要を記載した書類
  3. 承認を受けようとする国税関係書類の保存を行う電子計算機処理に関する事務手続の概要を明らかにした書類(当該電子計算機処理を他の者に委託している場合には、その委託に係る契約書の写し)
  4. 申請書の記載事項を補完するために必要となる書類・その他参考となるべき書類・その他参考書類

参考:国税庁ホームページ「[手続名]国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請

電子帳簿保存法は今や実用的な法律として多くの企業が対応し、帳簿や書類のデータ化保存で印刷コストを削減したり、業務効率向上を目指したりしています。対応のためのハードルもグンと下がっており、今後も法整備が続けられていくことが予想されていますので、電子帳簿保存法への対応をぜひ検討してみてください。

まとめ

電子帳簿保存法の改定が進むにつれて、文書の電子化の垣根はさらに下がり、企業におけるペーパーレス化が一層進んでいます。

もちろん文書の保管・管理にかかる負担やコストの低減ばかりでなく、文書を電子データとして取り扱えるため、検索性も格段に向上し、文章の利活用、さらには在宅勤務やリモートワークといった新たなワークスタイルへも適用できるようになります。

また、電子帳簿保存法の対象となる文書は、国税関係の書類にとどまりますが、e-文書法で規定される範囲としては、契約書や見積書、注文書といった営業活動で利用される書面や、領収書、請求書、納品書といった会計処理に関連する文書、さらには、財務や税金関係書類、定款、株主総会・取締役会議事録など会社全体の財務管理関連の書類まで対象となるため、電子化によるメリットもより範囲が広く大きなものとなります。

一方で、それぞれ完全性や機密性の担保など、電子帳簿保存法ならびにe-文書法が規定するルールを遵守する必要もあるため、適切なシステムの採用が不可欠となります。

各種法改正や改定に注目しつつ、適切なシステム化を進めることで、業務の効率化も確実に進めることが可能となります。

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