現在、国内の企業ではDXの推進が重要課題となっています。DXを実現するためには情報技術の戦略的活用が必須であり、IT分野に精通したデジタル人材が不可欠です。本記事では、デジタル人材の必要性や確保する方法、育成における重要なポイントなどについて解説します。
デジタル人材の必要性
「デジタル人材」とは、最新のデジタル技術を活用して付加価値を創出し、DXの実現に貢献する優れた人材を指します。このデジタル人材がさまざまな分野で求められている背景には、経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」があります。2018年9月、経済産業省は「DXレポート(※1)」の中で、企業がレガシーシステムを抱えるリスクについて言及しており、2025年までにITインフラの変革を実現できなければ、2025年以降、年間最大12兆円の経済的損失が発生する可能性があると警告を発しています。
こうした事態を回避すべくデジタル技術の活用による経営改革、つまりDXの実現が求められています。そしてDXを推進するためには、IT分野に深い知見を備えるデジタル人材の確保が欠かせません。しかし、日本にはそもそもデジタル人材が少ない、社内でのITやDXに対する意識が低いなどの理由で、いかにしてDXの推進に寄与するデジタル人材を採用・育成するかが重要な経営課題となっています。
(※1)参照元:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(p.26)|経済産業省
デジタル人材が備えるスキル
DXの推進にはデジタル技術の戦略的活用が必須であり、その実現を担うデジタル人材には「ITスキル」と「ビジネススキル」が求められます。
ITスキル
DXとは「デジタル技術の活用による変革」を指す概念であり、事業領域では最先端の情報技術を駆使して事業形態や組織構造そのものに改革をもたらすことを意味します。そのためには、既存のシステム環境を理解し、DXの実現に必要なソリューションを選定する高度な知見が不可欠です。したがって、デジタル人材にはAIやIoT、クラウドコンピューティング、システムの設計・開発・運用管理、プログラミングなど、IT領域に関する総合的な知見が求められます。
また、市場の競争優位性を確立するためには、勘や経験といった曖昧な要素に依存しない、データを起点とした論理的な意思決定が欠かせません。デジタル技術を導入するだけでなく、それらを効率的かつ効果的に運用・管理し、イノベーティブな経営体制の構築を推進することがデジタル人材に必要です。
ビジネススキル
多くの企業がDXの推進を重要課題として掲げるものの、いわゆるIT化やデジタル活用の領域に留まっている事例が少なくありません。AIによる機械学習や深層学習、センシング技術が搭載されたIoT機器を導入しても、それらを事業領域に活用できなければ、それは単なるIT化です。DXを推進するためにはデジタル技術によって自社や顧客の問題を解決能力やマーケティングに関する高度なビジネススキルも必要です。
また、DXは個人の力のみで成し遂げられるものではありません。組織全体が改革に向けて推進する組織風土や企業文化を醸成する必要があります。そのためには、DXに向けたビジョンを示すリーダーシップやチームの和を保つコミュニケーション能力、プロジェクトを俯瞰的に管理するマネジメントスキルなどが欠かせません。したがって、デジタル人材にはITスキルのみならず、組織全体をDXの推進へと方向付けるビジネススキルが求められます。
デジタル人材を確保する方法
近年、多くの分野でデジタル人材の不足が課題になっています。DXの推進に寄与するデジタル人材を確保できていない場合、主な選択肢となるのが「外部からの獲得」と「社内での育成」です。
外部からの獲得
外部からデジタル人材を獲得する方法には、「採用戦略の強化」と「アウトソーシングの活用」という2つの選択肢があります。採用活動によって優秀な人材を獲得できれば、組織全体における経営基盤の総合的な強化につながります。しかし、高度なスキルを備えた人材獲得の競争率は高く、人材不足が深刻化する中で採用に至るのは容易ではありません。その場合、専門的な知見をもつデジタル人材をアウトソーシングによって確保する必要があります。
社内での育成
デジタル人材の確保を推進する上で、最も推奨される方法といえるのが「社内での育成」です。教育プログラムや研修制度などのフレームワークを整備し、既存の従業員を育成することで企業の持続的な発展につながります。人材定着の観点からも有用な方法であり、DXの推進において必須といえる取り組みです。ただし、採用やアウトソーシングと比較すると即効性に劣るため、デジタル人材の育成には相応の時間とコストを要する点に注意しなくてはなりません。
デジタル人材の育成におけるポイント
デジタル人材の育成は多くの時間とコストを要しますが、DXの実現を目指す上で非常に重要度の高いファクターです。社内でデジタル人材の育成を推進する際は、以下に挙げる3つのポイントを押さえる必要があります。
リスキリング
「リスキリング」とは、市場や産業構造の急激な変化に対応すべく、新たなスキルの獲得を目指す取り組みのことです。現代は「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をとって「VUCA(ブーカ)」の時代と呼ばれており、定型化された教育プログラムでは環境の変化に対応しきれません。企業が新たな付加価値を創出し、変化の加速する現代市場を生き残るためには、従業員の責任感と成長を促進するリスキリングの仕組みを整備する必要があります。
研修
デジタル人材を育成するために必須の施策といえるのが「研修制度の整備」です。情報技術やマネジメント領域に関する専門的な知識を備える講師を招き、定期的な社内研修を実施することで人的資源の総合的なスキルアップが期待できます。しかも、研修制度の整備によって従業員のモチベーションとエンゲージメントが高まり、組織全体における生産性の向上にもつながります。また、外部の企業が主催する社外研修を活用し、従業員が多様な価値観に触れる機会を創出するのも大切な取り組みです。
学習支援
従業員の自律的な学習意欲を醸成する仕組みづくりは、企業経営における重要課題の1つです。従業員のパフォーマンスを最大化するためには、罰則の回避や報酬の獲得などの外発的動機付けだけでなく、探究心や好奇心といった内面から沸き起こる内発的動機付けに基づくモチベーションも欠かせません。従業員が意欲的に学べる環境整備に取り組むと共に、資格取得に向けた支援制度を整備するなど、デジタル人材の育成を推進する組織構造が求められます。
デジタル人材の確保に関連する支援制度
冒頭で述べたように、経済産業省が危惧する「2025年の崖」が差し迫っており、DXの推進は官民一体となって取り組むべき重要課題となっています。このような背景から厚生労働省は「人材開発支援助成金(※2)」を整備し、企業のデジタル人材育成を支援しています。人材開発支援助成金とは、従業員がIT分野の訓練を実施した場合、その期間中の経費や賃金の一部を助成する制度です。デジタル人材の教育や訓練に活用できるため、DXの推進を経営目標に掲げている企業は積極的に利用すべき助成金といえます。
(※2)参照元:人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇等付与コース、特別育成訓練コース、人への投資促進コース)|厚生労働省
まとめ
テクノロジーの進歩・発展に伴って変化が加速する現代市場では、企業を取り巻く環境の変遷に対して柔軟に対応できる経営体制が求められます。そのためには、DXへの取り組みが不可欠であり、高度なITスキルとビジネススキルを備えるデジタル人材の確保が急務となっています。イノベーティブな経営体制の構築を推進する企業は、ぜひ本記事を参考にデジタル人材の採用・育成に取り組んでみてください。
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