3Dデザインにおけるコラボレーションとシミュレーションを実現するプラットフォーム「NVIDIA Omniverse」。個人クリエイター向けの無償プランのほか、企業向けのOmniverse Enterpriseによりデジタルツインの実現や建築におけるモデル構築、高度な製品設計などに活用することができます。
NVIDIA Omniverseは3Dデザインにおけるコラボレーションをどのように実現するのでしょうか。今回は、Omniverseを使ったデザインコラボレーションの可能性について、詳しく解説します。
NVIDIA Omniverseとは
まず初めに、NVIDIA Omniverseの概要と特徴について紹介します。
NVIDIA Omniverse概要
NVIDIA社が提供するNVIDIA Omniverseは、3Dデザイン、ビジュアライゼーション、シミュレーションにおける新しい世界的な標準となることを目指すプラットフォームです。
通常、3Dデザインにおいては、クリエイター・デザイナー・クライアントなど様々なメンバーが、目的に合わせて様々なツールを利用しながら共同で作業を実施します。この際、メンバー間で作業を継続するためには、ツールからエクスポートしたファイルを受け渡し、また別のツールにインポートするような作業が必要です。一般的に3Dデータのファイルサイズは大きく、また形式も様々であるため、ファイルのやり取りは作業におけるオーバーヘッドとなります。
これに対し、Omniverseは、Universal Scene Description(USD)と呼ばれる単一のフォーマットにより異なるツール間でも同じデータを利用できるようにしつつ、オンプレミスもしくはクラウド上のサーバーにデータを集約することでデータの受け渡しを最小限にします。
加えて、Omniverse上では、3Dデータのレイアウト設定やレンダリング、ライティングなどを行うこともできます。クライアントによるレビューにも対応しており、あらゆる利用者が一つの環境で作業を実現できるように設計されています。
Omniverseを使用することで、デザインやビジュアライゼーションの作業を効率化し、チーム内でのコラボレーションを促進できます。
NVIDIA Omniverseの3つの特徴
NVIDIA Omniverseの大きな特徴は以下のとおりです。
- コラボレーション
単一のプラットフォーム上で、様々なツールを用いてデータの編集・確認を実現することができます。 - 高速かつ高品質
NVIDIA社のRTXシリーズGPUを搭載したオンプレやクラウド環境上にて、リアルタイムに「物理的に正確」で「写真のようにリアル」な映像を生成できます。 - RTXテクノロジによるシミュレーション
NVIDIAが提供するサービスであり、効率的なGPU利用と最新のAI機能を組み合わせた高速なリアルタイムレンダリングを実現できます。 - NVIDIA Omniverseの中核となるUniversal Scene Description (USD)とは
NVIDIA Omniverseは、Universal Scene Description (USD)と呼ばれるフォーマットを採用しています。USDはPixar社によって開発され、オープンソース化されたのちNVIDIA、APPLEなどにより拡張が行われているフォーマットです。
USDは3D仮想世界における「HTML」のようなものだと理解するとイメージしやすいでしょう。形状や質感、ライト、カメラ、アニメーション、ボリューム、リジッドボディなど様々な要素を取り扱うことができます。
あらゆるツールからConnectorやインポート機能を使ってUSDフォーマットに変換されOmniverse上でデータを取り扱うことができます。具体的には、Mayaや3ds Max、Revit、Unreal Engineなど、主要なツールがOmniverseに対応しています。
Omniverse内部およびOmniverseから外部のデータのやり取りはUSDを介して行われており、様々なツールで共通利用するための基盤となっています。
NVIDIA Omniverseのユースケース
Omniverseは以下のようなユースケースに対応しています。
- デジタルツイン
Omniverseを活用することで物理的に正確な仮想空間を構築できます。また、仮想空間と現実世界と同期することで、仮想空間上での工場や化学プラントの運用監視や、各種シミュレーションなどを実現します。 - 建築
Omniverse上で3Dデザインを作成し、コンセプトデザインやコンペ向けビジュアライゼーションなどを実現。多数のメンバーが参加する大規模プロジェクトにおいても、高速にコラボレーションを行うことができます。 - 製品設計
複数の3Dツールでのコラボレーションを実現し、設計デザインの業務フローを変革することができます。Omniverse上でレビュワーがレビューを行うこともできるため、開発のサイクルも回しやすくなります。
NVIDIA Omniverseの主要機能
以下では、Omniverseの主要機能について紹介します。
Omniverse Nucleus
Omniverse Nucleus(読み:ニュークリウス)はOmniverseの中核を担う各種アセットのデータベースサーバーです。チームの一元的なアクセス先として、オンプレミス環境もしくはクラウド環境上に構築することができます。
Omniverse Nucleusでは高速かつ効率的なデータ処理のために様々な技術が利用されています。たとえば、変更差分のみの受け渡しにより大規模なファイルでも効率的にコラボレーションを実現し、またレイヤリング機能により複数の利用者がオリジナルデータを維持したまま編集作業を行うこともできます。
Omniverse Connector
Omniverse Nucleusと各種ツールをつなぐ役割を担っているのがOmniverse Connectorです。Omniverse ConnectorはUSD形式により各ツールとのデータ連携をリアルタイムで実施します。
Maya、3ds Max、Revit、Unreal Engineなど3Dデザインにおける主要なツールに対応したコネクタが用意されており、双方向または1方向でのデータのやり取りが可能です。
Omniverse USD ComposerおよびOmniverse USD Presenter
Omniverse USD Composer (旧称:Omniverse Create)は、USD形式のデータを基にリアルタイムでレンダリングやライティングを行い、3Dシーンを組み立てることができます。レイアウトツールや物理演算も可能であり、アニメーションの作成や現実世界のシミュレーションを実現します。
Omniverse USD Presenter(旧称:Omniverse View)は、レビュー担当者向けにビジュアライゼーションを行うことができる機能です。様々なシーンの表示やマークアップ、注釈などの機能が用意されており、デザインの細部まで確認することができます。
Omniverse KIT
開発者向けに用意されたOmniverse KITにより、Omniverse内でアプリや拡張機能などの開発もできます。上述したUSD ComposerやUSD Presenterなどの機能を拡張したり、既存で存在しないコネクタを構築してNucleusと連携を実現したりと、Omniverseの基本機能を拡張するために活用されます。
また、Omniverse上で動作するアプリを開発することもできます。たとえば専門的な用途で用いるための3Dビューアや、目的に合わせたAIの実装も可能です。
Omniverse KITはいわゆるSDK(Software Development Kit)であり、これらの開発を効率的に行うための様々なモジュールが用意されています。
NVIDIA Omniverseによるデザインコラボレーション
これらの機能を持つNVIDIA Omniverseでは、デザイン作業のコラボレーションを実現できます。具体的にどのようなコラボレーションが実現できるのでしょうか。
リアルタイムでの共同作業が可能
Omniverseでは、複数のデザイナーが同時に作業することができます。チーム内での共同作業が容易に行え、クリエイティブなアイデアの共有もスムーズに実現されます。NVIDIAのリアルタイムレイトレーシングの技術の活用により作業効率も向上し、工期短縮も可能となります。
ビジュアライゼーションの高速化
Omniverseは、高速なレンダリングエンジンを搭載しています。これにより、リアルタイムでのプレビューが可能になり、時間のかかるレンダリング作業を省くことができます。
また、レンダリングによるビジュアルデザインに特化したNVIDIAのGPUを使用することで、より高品質なビジュアル表現が可能となります。
外部データの容易な取り込みが可能
CADファイルや点群データなど様々なデータ形式を簡単に取り込むことができます。他のアプリケーションで作成されたデータをOmniverseで活用することもできます。
また、シミュレーションデータの取り込みにより現実空間に類似したシチュエーションを再現することも可能です。
リモートワークに対応
Omniverseは離れた拠点でのコラボレーションも実現します。デザイナーが複数の場所に分散している場合でも、Omniverseを使うことで、簡単に共同作業を行うことができます。
Omniverseを活用することでリモートワークにも対応しやすくなり、また海外拠点などとの連携もしやすくなるでしょう。
NVIDIA Omniverseが設計者やデザイナーにもたらすメリット
Omniverseは、作業を行う設計者やデザイナーの方にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。具体的に解説します。
▲Omniverseが創り出すフォトリアルな世界
共同作業の促進
上述した通り、USDフォーマットにより複数のオペレーターが別々に作業しながら、1つのファイルに集約できるという点は大きなメリットといえます。
たとえば3Dモデルの変更依頼があった際にも、手戻りを少なくすることができるでしょう。
様々なツールを利用可能
Blenderや3dsMax、SubstancePainter、Houdiniなどの使い慣れたツールで作業を行える点もメリットといえます。それぞれのツールにより、Omniverse上で以下のような作業を実現できます。
- Blenderとの連携:実際のカメラで見たような直感的なアニメーションを再現
- SubstancePainterとの連携:テクスチャペインティングによりオブジェクトの質感をリアルに表現
- 3dsMaxとの連携:使い慣れたアセットを利用して効率的に制作
- Houdiniとの連携:流体シミュレーションを再現可能
リアルタイムでレンダリング・ライティングを実現
Omniverse USD Composerにより、Omniverse上でリアルタイムにレンダリングやライティングを行うことができます。RTX-Interactive(Path Tracing)とRTX-Realtimeの2つのレンダリングイメージを切り替えながら効率的に作業を行ったり、日陰のシミュレーションによりライティングの最終品質をリアルタイムに確認したりといったことを実現します。
まとめ
この記事では、Omniverseを使ったデザインコラボレーションの可能性についてご紹介しました。デジタル化の進展とともに、クリエイティブやエンターテインメント以外の領域でも3Dデザインを行う機会が増えています。デジタルツインやメタバース環境の構築、製品設計の高度化・効率化など、様々なユースケースが想定されます。Omniverseの活用は、これらの取り組みを進めている企業にとって有効な選択肢となるでしょう。
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