製造業のデジタルツインとは? シミュレーション、メタバースとの違いと事例

 2023.07.03  2023.10.09

国内の製造業ではDXの実現が喫緊の経営課題となっており、デジタル技術の戦略的活用による経営改革が求められています。そして製造DXを実現するために欠かせない技術の一つがデジタルツインです。この記事ではデジタルツインの概要や製造業で注目されている背景、企業の活用事例などを紹介します。

製造業のデジタルツインとは? シミュレーション、メタバースとの違いと事例

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デジタルツインとは

デジタルツインとは、現実世界から集めたデータに基づいて仮想空間に同じ環境を再現する技術を指します。例えば、IoTのセンシング技術で収集した製造ラインの物理的なデータを仮想空間に再現し、ARやVRなどを用いて現実世界と同様の環境でシミュレーションする、といった事例が該当します。BCC Researchが2022年に公表した「デジタルツイン:世界市場2026年予測(※1)」では、デジタルツインの市場規模が2026年には約502億ドルにまで拡大し、市場の平均年成長率は59.0%に達することが予測されています。

(※1)参照元:BCC Research「デジタルツイン:世界市場2026年予測」

デジタルツインとシミュレーションの違い

デジタルツインと似た概念にシミュレーションがあります。シミュレーションとは「模擬実験」や「模擬訓練」を意味する言葉であり、現実世界で想定される事象に近い状況をモデル化して予測・検証・分析する技術を指します。仮想空間に限定されず、現実世界の物体や物理的な現象を用いるケースも少なくありません。

一方のデジタルツインは現実世界と同様の環境を仮想空間に再現する技術を指し、リアルタイム性の高さやトライアンドエラーが容易になるといった特性を持ちます。つまり、シミュレーションという広範な概念の中にデジタルツインという手法が含まれます。

デジタルツインとメタバースの違い

メタバースは、オンライン上の空間に構築された仮想の三次元世界を意味する概念です。デジタルツインとメタバースは、仮想空間に構築されたデジタル世界という観点ではよく似た技術です。しかし、メタバースは実在しない仮想世界をオンライン環境に創造するのに対し、デジタルツインは現実に存在する物体や環境を仮想世界に再現する、という違いがあります。また、メタバースはSNSのようなコミュニケーションツールとしての側面が強い一方、デジタルツインは主に事業領域における高度なシミュレーションを目的とする点でも異なります。

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デジタルツインが製造業で注目される背景

デジタルツインが製造分野で注目されている理由の一つに、DXの実現があります。国内では少子高齢化に伴って生産年齢人口が減少傾向にあり、経済産業省が2019年にまとめた資料(※2)によると、製造企業の約4割が重要課題に「人手不足」を挙げています。労働力が減少するなか、これまでと同等以上の生産性を確保するためには、デジタル技術の戦略的活用による生産体制の変革が不可欠です。

このような背景から、IoTやAI、AR、VRなどの最先端テクノロジーを活用した創造的なイノベーションが期待されています。とりわけデジタルツインは、仮想空間で現実世界と同様の体験ができるため、試作コストの削減や製品開発の効率化、人材育成の合理化、予知保全の実現など、多方面に寄与する技術として大きな注目を集めています。

(※2)参照元:2020年版ものづくり白書|経済産業省(p.138)

デジタルツインで活用されている主な技術

デジタルツインは、IoT、AI、AR、VR、5Gなどの技術を組み合わせて構成されます。以下にそれぞれの技術がデジタルツインに果たす役割を解説します。

IoT

IoT(Internet of Things:モノのインターネット)とは、情報機器や家電製品などの「モノ」をインターネットを介して接続する技術のことです。デジタルツインでは現実世界の高精度かつ膨大なデータを必要とするため、IoTのセンシング技術による情報収集が不可欠です。

AI

AI(Artificial Intelligence:人工知能)はIoTで得た膨大な情報をスピーディーに分析・予測することに用いられます。

AR・VR

AR(Augmented Reality:拡張現実)は現実世界の一部にデジタル情報を付与する技術、VR(Virtual Reality:仮想現実)はデジタル空間で現実世界を再現する技術です。現実世界を再現・可視化する役割を担います。

5G

「5G」とは第5世代移動通信システムのことであり、高速、大容量、低遅延のデータ通信を実現します。現実世界の膨大な情報をリアルタイムに仮想世界へと反映するための不可欠な技術です。

デジタルツインを製造業で利用するメリット

製造分野でデジタルツインを利用する主なメリットとして、「コスト削減・品質向上」「業務効率化」が挙げられます。

コスト削減や品質向上などの付加価値がある

デジタルツインの技術によって、現実世界と同じ環境でシミュレーションを実行できる環境が得られます。例えば、製造分野では商品化に至るまで、部材の仕入れや原材料の加工、試作品の作成、各種テストといった複数の工程が必要です。これら一連のプロセスを仮想空間でシミュレーションすることで、製造コストや試作期間を大幅に削減できます。それによって製品開発における投資リスクが最小化されるほか、トライアル・アンド・エラーが容易になることで製造プロセスの合理化と製品の品質向上が期待できます。

業務効率化が期待できる

デジタルツインは現実世界と連動するため、産業機械や設備機器などに異常が発生した場合でもリアルタイムに状況を把握できます。遠隔地からでも異常の発見や原因究明が可能となるため、異常検知や設備保全といった業務領域の効率化につながります。また、製造ラインに何らかの異常が発生した場合、監督者や指導員が仮想空間で状況を把握しつつ、現場作業員に的確な指示を出すといったことも可能です。これまで現場出向する必要があった業務をリモート化できるため、現場に赴く時間や手間が削減でき、組織全体における労働生産性の向上が期待できます。

企業におけるデジタルツインの活用事例

デジタルツインは実際の製造現場においてどのように活用されているのでしょうか。ここでは製造分野におけるデジタルツインの活用事例を紹介します。

大手総合電機メーカーによる自社工場の再現

大手総合電機メーカーでは、5Gによるデータ通信を介して生産設備や製造ラインの稼働状況を一元的に把握できる仕組みを構築しています。工場の稼働状況をリアルタイムに把握・分析できる環境が整備され、遠隔での作業支援やAIによる作業判定の自動化などが実現しました。それにより、メンテナンスのリモート化や作業の精度向上・効率化に成功しています。

大手建設機器メーカーによる施工プロセスのデジタル化

大手建設機器メーカーでは、建設現場の情報をデジタル化し、現実世界と仮想空間を同期させながら施工の最適化を図る仕組みを構築しています。施工計画から施工管理・検査に至るまでのプロセスのデジタル化を推進しました。各種工程をリアルタイムでモニタリングすることにより、建設現場における安全性の確保や生産性向上を実現しています。

大手総合化学メーカーによるリモートでの技術指導の実現

大手総合化学メーカーでは、技術指導のリモート化にデジタルツインが活用されています。これまでは、プラントごとに製造する製品が異なるため、それぞれに高い専門性を有するベテラン技術者が必要でした。各プラントをデジタルツイン化し、作業員の手元を遠隔地から確認できる仕組みを構築しました。プラントにベテラン技術者がいない場合でも、遠隔地から技術を指導できる環境が整備され、技術伝承の効率化を実現しました。

デジタルツインの課題

デジタルツインの課題としてまず挙げられるのがコストです。デジタルツインはIoTやAIといった最先端テクノロジーの活用が必須であるため、ITインフラの構築に相応のコストと投資リスクを伴います。また、モニタリングされていない周辺環境との相互関係を観測・予測することが困難である点も考慮しなくてはなりません。

IT人材の不足もデジタルツイン推進の障壁として考慮する必要があります。デジタルツインの導入効果は各現場の運用体制に依存するため、高度な技術と深い知識を有するIT人材を確保しなくてはなりません。国内ではIT人材の不足が深刻化しているため、いかにして高度な人材を採用・育成するかが重要です。

まとめ

デジタルツインは現実世界のデータに基づいて仮想空間に同様の環境を再現する技術です。仮想空間で現実世界さながらのシミュレーションを実行できるため、試作コストの削減や製品開発の効率化、人材育成の合理化などに寄与します。デジタルツインはIoTやAI、ARなどの技術で構成されており、製造DXの実現に欠かせない要素として注目を集めています。

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