近年、デジタル化の進展に伴い、世界規模で革新的なサービスが数多く創出されています。なかでもスマートフォンの分野は進歩・発展が目覚ましく、とくに注目を集めているのがスーパーアプリと呼ばれる統合型アプリケーションです。本記事では、その基本的な知識や展開する際のメリットとデメリットについて解説します。
スーパーアプリとは?
複数の異なる機能やサービスが統合されたアプリケーションを指します。通常、アプリケーションは電子商取引や金融サービス、SNS、動画配信、スケジュール管理、メモ帳、天気予報など、単一のサービスとして提供されるのが一般的です。このようなソフトウェアをネイティブアプリと呼びます。そして様々な機能を集約し、1つのサービスとして統合して提供するのがスーパーアプリです。
スーパーアプリは複数の機能を1つのプラットフォームで管理できるので、各サービスを個別に立ち上げる必要がありません。メッセージアプリから離脱して動画を検索する、スケジュール管理のために別々のソフトウェアを切り替えてメモとして残す、といった操作が不要になるため、利用者は便利にサービスを活用できます。操作体系が統一されているので利便性が高く、一貫性の高い顧客体験価値を提供できる点が大きな特徴です。使用しているうちに利用者が様々なサービスに自然と触れられるように設計されていることから導線が成立しており、各サービスへの新規顧客獲得が容易になります。中国や東南アジアでのユーザー数は数億人規模にまで拡大しており、日常生活を支える社会インフラとして機能しています。
ミニアプリとの違い
ミニアプリは独自のプラットフォームをもたず、スーパーアプリを基盤に動作する個別のアプリケーションです。スーパーアプリから起動でき、個別のダウンロードを必要としません。
ネイティブアプリ(既存のアプリ)との違い
従来は複数のネイティブアプリをインストールし、個別に立ち上げて利用するのが一般的でした。しかし、スーパーアプリはネイティブアプリのようなサービスが複数搭載されており、単体で様々な機能を統合的に利用できる点が大きな特徴です。
スーパーアプリの代表例
スーパーアプリの代表例としてはLINEとWeChatが挙げられます。
LINE
国内で最もスーパーアプリに近いサービスといえるのがLINEです。LINEは本来、メッセージアプリとしてリリースされましたが、現在ではチャットをはじめ、決済機能が使えるLINE Payや友人にギフトを贈れるLINEギフト、最新のニュースを閲覧できるLINEニュースなど、複数のミニアプリが搭載されています。その他にも音楽やゲーム、予約サポートといった機能の利用も可能であり、国内におけるスーパーアプリとしての地位を確立しつつあるサービスです。
WeChatは中国の大手IT企業であるテンセント・ホールディングスが提供するスーパーアプリです。LINEと同様に初期はメッセージアプリとしてリリースされたものの、現在ではオンラインショッピングやキャッシュレス決済、金融サービス、税金の支払い、タクシーの手配、チケットの予約、オンライン診察など、様々なミニアプリ(WeChatではミニプログラムと呼ばれる)が集約されています。WeChatは中華圏最大規模のスーパーアプリであり、中国では社会インフラといっても過言ではなくなっています。
企業がスーパーアプリを展開した場合の4つのメリット
スーパーアプリの展開によって得られる主なメリットは以下の4つです。
1. ユーザーを獲得しやすい
1つのプラットフォームに様々なサービスが統合されるため、従来のように複数のネイティブアプリをインストールする手間を省略できます。さらに、アプリケーション毎のID設定やパスワードの登録といった負荷を軽減できるので、サービスを利用する消費者にとって利便性が高く、新規ユーザーを獲得するハードルが低い点が大きなメリットです。また、サービスを周知するための大々的なキャンペーンを行わなくても、アプリを利用していれば自然と別のサービスや新規機能に関する情報が得られるような仕組みとなっています。このため、提供側は新規ユーザーの獲得に必要なコストをより重要なプロジェクトに回せるようになります。
2. ユーザーの囲い込みができる
利用頻度の低下したアプリケーションをアンイストールするユーザーは少なくありません。しかし、スーパーアプリは1つのプラットフォームで複数のミニアプリを展開できることから、アンイストールされにくい傾向にあります。長期的に利用してくれるユーザーを囲い込みやすく、収益性の安定化と顧客生涯価値の向上、そして口コミの拡散につながる点がメリットです。一度ファン化したユーザーはアプリそのものだけでなく、提供企業にも好感を抱く傾向があります。日常的に利用する機能やサービスがあれば、接する回数が増えるほどその対象に好感をもつようになるというザイオンス効果もあいまって、利用者のファン化を促進できます。
3. サービスの展開が容易である
通常、サービスを横展開する場合は複数のネイティブアプリを開発し、それぞれに最適化された集客経路を設計しなくてはなりません。スーパーアプリはプラットフォーム内にミニアプリを構築できるため、別途ネイティブアプリを開発する必要がなく、既存のフレームワークを用いてサービスを横展開できます。また、独立したアプリに共通して必要となる部分を削り、固有の機能だけを実装すれば良いため、ソフトウェアの設計もよりコンパクトかつシンプルにできます。
4. 開発コストを下げられる
スマホアプリはAndroid OSとiOSの両方を対象として設計・開発するのが一般的です。ネイティブアプリで複数のサービスを展開する場合、UI/UXデザインやソースコード、ブランディング戦略などを個別に設計しなくてはなりません。スーパーアプリはミニアプリの設計・開発に要するコードベースをプラットフォーム上で共有できるため、開発の工数とコストを削減できます。
企業がスーパーアプリを展開する場合に注意したい3つのデメリット
マーケティング次第で巨大な経済圏を創出できる可能性があるものの、以下に挙げる3つのポイントに注意しなくてはなりません。
1. 参入障壁が高い
例えば、国内で社会インフラとなるようなスーパーアプリの開発を目指す場合、既に多くのユーザーを囲い込んでいるLINEのようなサービスと市場占有率を競うことを意味します。さらにサービスの開発力や企画力、マーケティングスキルが問われるのはもちろん、ITインフラへの大規模な投資も必要です。したがって、多様なビジネスモデルを展開している企業、または連携可能なパートナー企業を募集できる企業で、なおかつ多くのユーザーを抱えるアプリケーションを有している企業でなくては参入が容易ではありません。
2. 機能過多に陥った場合はユーザー離れにつながる
1つのプラットフォームで多くの機能・サービスを提供できるものの、機能過多に陥ることでユーザー離れにつながりかねない点がデメリットです。例えば、決済サービスを同一プラットフォームに格納していたが、複数サービスとの混在によって利便性が低下し、現在は個別のネイティブアプリとして提供している事例があります。そのため、スーパーアプリの展開を推進する場合、利便性に優れる様々な機能・サービスを提供するだけでなく、いかにして一貫された顧客体験価値を提供するかが重要な課題です。
3. 情報漏洩時のインパクトが大きい
社会インフラとなるようなスーパーアプリには決して漏洩してはならない個人情報や金融情報が格納されています。万が一セキュリティ上のミスによって情報漏洩インシデントが発生した場合、アプリケーションの運用に支障をきたすのみならず、最悪のケースとしては事業停止にまで追い込まれる可能性もあります。スーパーアプリを展開する際は機密性と完全性、そして可用性を確保するための堅牢なセキュリティ体制が求められます。
まとめ
スーパーアプリとは、複数の機能・サービスが統合されたアプリケーションです。複数のアプリケーションを1つのプラットフォームで管理できるので、ネイティブアプリのようにサービスを個別に立ち上げる必要がなく、操作体系が統一された一貫性の高い顧客体験価値を提供できます。ただし、市場への参入障壁が高く、機能過多に陥った場合はユーザー離れにつながる可能性があり、情報漏洩インシデントが発生した際は多大な損害を招きかねません。しかし、社会インフラとなるようなスーパーアプリを開発できれば、巨大な経済圏を創出できる可能性を秘めています。
- カテゴリ:
- デジタルビジネス全般