デジタル技術の発達により、近年ビッグデータの収集や活用が活発化しています。本記事ではビッグデータの概要から、医療ビッグデータに焦点を当てて活用されるようになった背景、具体的な活用例を解説し、さらに医療ビッグデータの今後の展望についても紹介します。
ビッグデータとは
そもそもビッグデータとは、非構造化データを含む様々な種類や形式のデータで構成されている巨大なデータ群を指します。Volume(量)・Variety(種類・多様性)・Velocity(速度)の3つの「V」要素を備えているが大きな特徴です。
ビッグデータは、現在あらゆるビジネスシーンで有効活用されています。例えば小売業では顧客の購買データや売上データを販売力や集客力の向上にいかしたり、製造業では業務の効率化や生産性の向上に役立てていたりします。また、医療業界では膨大な保健医療データを収集・分析することで、患者に適切な医療や介護サービスの提供、医薬品の安全性向上、新薬開発などに貢献しています。
ビッグデータが注目されている背景
ビッグデータは様々な業界での利活用が期待されており、医療業界も例外ではありません。
インターネットやSNSの普及によりデータの量が膨大に
近年情報通信技術が目覚ましい進歩を遂げたことで、今やインターネットは生活になくてはならないインフラとなっています。特にスマートフォンの普及で、SNSは情報を受発信する手段として多くのユーザーから支持を得ています。
医療現場でもインターネットが普及したことでサーバ設置が不要なクラウド型電子カルテの導入が進んでいます。電子カルテは従来の紙のカルテと異なり、データの管理・保管がしやすく、ほかの医療機関や行政などと共有もできるため、ビッグデータの活用はもちろん、業務の効率化なども図れます。
コンピュータの性能の向上
ビッグデータの膨大なデータを処理するには、それを扱えるだけコンピュータ性能が必要であり、高性能コンピュータ導入には莫大なコストがかかります。しかし、昨今コンピュータの計算能力などが格段に向上したことで、ビッグデータの高速処理が低コストで可能になりました。
医療業界でも膨大なビッグデータの分析が従来よりもさらにスムーズになれば、新薬の開発やゲノム解析などの研究の進展が期待できます。
官公庁によるビッグデータ活用の推進
従来、ビッグデータ活用は民間企業が中心となり進められてきました。しかし昨今は、官公庁が新たな枠組みを提案し、第4次産業革命やSociety 5.0といった新たな取り組みも進められつつあります。このような官民一体の取り組みは、社会全体でビッグデータの活用をさらに推進する力となります。医療分野でも必要に応じて法改正が行われるなど、法整備が整うことでさらなる医療ビッグデータの活用が見込めます。
プライバシー保護とデータ利用のバランス
ビッグデータの活用は業務の効率化や新たなビジネスチャンスの創出などが期待できる一方、ビッグデータ利活用の広がりによってプライバシー保護の意識が高まっています。
日本におけるプライバシー保護の法律といえば、個人の権利や利益を守ることを目的に2003年に施行された「個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)」があります。この法律は定期的に検討を行い、必要に応じて改正されます。そのため、今までにデジタル技術の発達やグローバル化などに伴った改正が行われてきました。
また、欧州連合(EU)でも基本的人権の保護を目的として、個人データ保護やその取り扱いをどのようにするのかを定めた「EU一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)」が2018年から施行されています。
このようなプライバシー保護の法整備は、一見規制が厳しくなっているように見えますが、社会情勢の変化に対応していることがほとんどであり、昨今の日本の個人情報保護法改正では、制定時には想定していなかったデータの利活用についても配慮された内容になっています。
医療業界でも個人情報保護法の特例法である「次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)」が2018年から施行され、患者の医療情報が医療分野の研究開発に利活用しやすくなる環境が構築されつつあります。
医療ビッグデータが活用されている例とは?
医療業界には、電子カルテに記載した診療データや個人の健康診断データ、特定疾患の臨床データ、薬局での調剤データなど、様々なビッグデータが存在します。例えば、診療データや健康診断データは個人の健康管理や疾病予防に活用され、健康増進や医療・介護サービスの向上に役立ちます。また、特定疾患の臨床データや医薬品の副作用データなどは、疾病や治療に関する研究、新薬の開発、医薬品の安全性の向上に貢献できます。
医療ビッグデータが抱える課題
ビッグデータは業種にかかわらず、様々なシーンで便利に活用できる一方で、改善しなければならない課題がいくつかあります。まず、データの中には個人情報に関わるものが多く、プライバシーに配慮したデータの取り扱いが必要です。特に医療データはセンシティブな情報も少なくありません。場合によっては複数のデータを組み合わせることで個人が特定できるおそれもあるため、情報漏洩対策はもちろん、強固なセキュリティ対策や取り扱う人たちの情報セキュリティ教育が必須です。またビッグデータ分析には高度な知識やスキルのある人材も欠かせません。特に医療ビッグデータの場合、医療の専門知識も求められます。しかしながら、比較的新しい職種ということもあり人材育成が急務となっています。
医療ビッグデータの今後の展望
現在、ビッグデータのデータ利活用に関するルールや法制度の整備が進んでいます。例えば、個人情報保護法の改正やスマートシティ法案(国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案)の可決など、ビッグデータを含むデジタル技術が活用しやすくなる環境が整ってきています。医療業界でも次世代医療基盤法の施行によって従来よりも必要な情報を取り扱いしやすくなり、医療機器や新薬の開発、医薬品の安全対策の向上などが期待できます。
また近年、ますます進化を遂げているAIをビッグデータと組み合わせることで高度な分析が可能となり、病気の早期発見や画像診断ミスの軽減、病気の発生確率の予測といった医学の進歩にも寄与することでしょう。
CTCが医療データ事業に参入
医療ビッグデータはデータが蓄積されればされるほど様々な活用が期待できるため、市場の拡大が見込まれます。あらゆる業種のデータ情報管理や活用をサポートしている大手IT企業、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)も医療データ事業に参入することが2023年6月に発表されました。健康診断や処方箋の履歴、睡眠状態、運動などの情報を組み合わせて解析し、個人に合ったヘルスケアサービスの提供を目指しています。このような大手IT企業の参入によって、医療のデジタル化がさらに進むことが期待されています。
まとめ
医療ビッグデータの利活用によって、健康増進サポートや臨床研究への貢献、既存業務の効率化、新たな市場の創出などが期待されています。このような医療ビッグデータまい進の背景には、インターネットの普及やコンピュータの性能向上、そして国のビッグデータ活用推進が大いに関係しています。医療ビッグデータの活用にはセキュリティ対策や人材不足といった課題もありますが、それでも幅広い市場の拡大が期待できることから、今後の発展にますます目が離せません。
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