業務効率を高め、企業の生産性を高めようとするときに障害となるのがサイロ化です。サイロ化とはどのような状態なのか、サイロ化に陥る要因、システムのサイロ化によるデメリット、サイロ化を解消するメリットなどを解説します。また、システムのサイロ化を解消する方法についても紹介します。
サイロ化とは
サイロのもともとの意味は家畜の飼料や干し草、または米や麦などの農産物をそれぞれ分けて貯蔵するための倉庫、大きな容器です。各サイロに分けているのはそれぞれの内容物が混ざらないように貯蔵するためで、サイロは独立しています。そこから転じて、サイロ化とは組織の各部門またはシステムが独立し、業務が自己完結しているため、部門・システム間の連携がうまくいかない状態を指します。
サイロ化には企業組織のサイロ化と、システムのサイロ化の2種類が存在します。企業組織のサイロ化は、縦割り構造で各部署が独立して業務を遂行しているため、他の部署との情報共有ができない状態を指します。縦割りによって部署内の結束力や専門性を高める効果はありますが、部署間の連携がしづらく企業全体の生産性を損なう結果につながります。
システムのサイロ化は、ソフトウェアの仕様やデータ形式の違いなどにより、データの保存や活用などができない状態です。他の部署が使用している、または部署内の他のシステムとの連携を考慮せず、システムを構築したために起こります。システム構築後に連携するにはデータを加工する必要があり、連携させるシステム双方のバージョンアップに合わせて更新することになるため、連携ミスにつながります。
また、貴重な社内データが分散することで、一部のデータしか使用できない状態になってしまいます。システムのサイロ化は担当者の負担を増やし、経営リソースを活かしきれない、非効率な状態を作ってしまうのです。本記事ではこのシステムのサイロ化について解説していきます。
サイロ化に陥る要因
システムのサイロ化は多くの企業が陥るおそれがあり、特に大企業で組織の構造が細分化している場合に起こりやすいです。サイロ化に陥る主な要因は以下の3つが挙げられます。
- 意思決定権の分立
- 情報共有しない社内文化
- コミュニケーション不足
まず意思決定権の分立について解説します。多くの企業は複数のビジネスツールを使用していますが、各部署で意思決定してツールを導入した結果、コミュニケーションやタスク管理のツールが重複して導入されるケースがあります。部署単位で成果を上げるためにツールを導入することは問題ないですが、ツール導入と同時に社内での連絡方法を明らかにしておくことが必要です。
次に情報共有しない社内文化について解説します。社内で普段から業務の報告や連絡、相談がおろそかになっていたり、部署ごとに派閥や競争意識が強かったりする企業の場合、各部署に不利になる情報を報告せず、情報共有しづらくなります。この場合は部署間の情報共有だけでなく、社内情報の取り扱いについて社員教育をする必要があります。
また、近年の傾向としてプライバシー保護や情報漏洩のリスクを減らすため、社内資料やデータの閲覧には制限をかけることが一般的です。安易に情報共有できなくなった結果、共有すべき情報も伝えにくくなっている現状があります。
最後にコミュニケーション不足について解説します。企業の組織が小さいうちは全体の事業の状況を把握しやすいです。しかし、ある程度の規模になると営業や経理など業務を効率的に進めるために部署を分割するため、部署間の情報が遮断され、コミュニケーションが取りづらくなります。また、各部署で独自の業務プロセスや専門用語を生み出すとサイロ化がさらに進みます。コミュニケーション不足にならないように各部署で連携できる体制を整えないと、組織が拡大するうちに無意識にサイロ化に陥ってしまうのです。
システムサイロ化によるデメリット
企業のシステムがサイロ化してしまうとどのようなデメリットがあるのでしょうか?詳しく解説します。
業務効率の低下
システムがサイロ化してしまうと情報共有が不足するため、他の部門で完了している作業を確認できず、同じ作業に取り組むケースが起こり得ます。「車輪の再発明」と呼ばれる現象です。これを防ぐには作業ごとにその都度、他の部門の業務状況を確認しなければならないなど無駄な作業が増えるため、業務プロセス全体が非効率になります。
また、部門ごとの個別管理で情報を十分に共有化されていないと、部門間で情報の整合性が図れません。例えば日次や月次報告のため、システムやツールでデータを収集し、レポートを作成する定型業務があります。部門間で適切な情報管理を行い、データ統合をしていないと、AIやIoTなどの最新技術を導入しても、定型業務の自動化は叶いません。
さらに、データを分析する際のデータ加工の前処理や、メール配信でデータの統合やセグメント後に配信するなどの業務オペレーションを効率的に行うことができず、改善もしづらくなります。単一のデータで自動化するのであれば、システムのサイロ化は問題になりませんが、各種データを活用するためにはデータ統合の必要があります。
顧客満足度の低下
情報共有が不足して業務効率が低下すれば、プロジェクトの進捗だけでなくサービスやプロダクトの質にも影響を及ぼします。顧客満足度を向上させるには、さまざまなチャネルから顧客情報を収集し、分析してアプローチに活かす必要があります。顧客が潜在的にどのような商品やサービスを求めているのか、営業やサービス部門が把握していても、商品開発やマーケティング部門に情報が共有されていなければ、顧客のニーズを取り込んだ最適な施策を打てず、サービスの展開も遅くなってしまいます。
サービスやプロダクトを提供するまでの業務プロセスには複数の部門が関わるため、システムのサイロ化により質の低下、顧客満足度の低下は避けられないでしょう。他の部署での成功事例や顧客からのクレームなど、業務改善のために重要な情報が社内で共有されていないとビジネスチャンスを逃すだけでなく、企業としての体制が疑われ、信頼を損ねるおそれもあります。様々な点で市場に遅れを取り、競合他社に先を越され、顧客も離れていき、新しく顧客を獲得するのも難しくなります。
意思決定スピードの鈍化
AIやIoTなどテクノロジーの進歩・普及に伴い、市場が急激に変化すると同時に顧客ニーズは複雑に多様化し、要求されるニーズも高くなっています。このように変化が著しい市場の中で、企業が新たな商品やサービスを提供するには、迅速な意思決定と的確な経営判断が欠かせません。ところがシステムがサイロ化していると、経営判断に必要な情報を集めることがうまく行かず、意思決定の遅れが生じます。まず、どの部門がどんなデータを管理・運用しているのか把握するところからスタートしなければなりません。
部門ごとに形式が異なるデータを蓄積していたり、逆に同じファイルを作っていたりした場合、情報の分析や最新版のファイルかどうかを判断するのは困難です。データ収集と分析に時間がかかる上、利用目的が異なる部門別のデータを寄せ集めても、正しい分析は難しくなります。データを手動で統合する際にヒューマンエラーのリスクも高まります。このように作業の負担とリスクがあることで、市場ニーズに対応できず、結果的に企業の競争力が低下してしまうのです。
不要なコストの発生
システムがサイロ化し、連携されていないと複数のシステムを購入する必要があり、担当者がそれぞれにアクセスするためにライセンスを所有しなければなりません。使用しているサーバーやセキュリティシステムもそれぞれ異なるケースが多く、別々に保守・運用が必要になるため、費用がかさんでしまいます。部門間で情報共有が不足しているため、同じデータを複数の部門で管理しているケースもあり、データ管理のコストも無駄になります。
データがサイロ化し、分散していると、体系的に整理されていないケースも増えます。社員が目的に合わせて必要なデータを取得しようと思っても時間がかかってしまい、データ加工や集計に日数がかかるようでは、経営資産であるデータを有効に活用できません。社内に蓄積したデータの形式やプログラミング言語、テキストや動画などデータソースが違えば、一元的にデータを統合することは困難です。データ管理・運用のコストと負担ばかりがかかってしまいます。
システムのサイロ化を解消するメリット
システムのサイロ化を解消すれば、無駄な作業や時間を減らし、コストの削減が可能です。その他に得られる主なメリットについて解説します。
データ価値の向上
社内に分散していたデータが整理され、社員が必要なときに最適なデータを取得できるようになれば、データの利用価値が向上します。体系的に整理されれば、データの中身とボリュームを可視化できるので、社内で活用方法の検討が可能です。顧客の購入時のアクセスログや行動履歴など、有用な複数のデータを抽出し、多角的な視点で分析すれば、プロモーションを効果的に打つことができます。また、どのチャネルが有効かというマーケティング戦略に活用できることに加え、複数のデータを統合することで、データの信頼性も高まります。
業務効率化と生産性向上
システムのサイロ化が解消されれば、社内外のデータを取得し、統合されたビッグデータとして解析できるようになります。データの入出力に必要な日々の定型業務やルーティンワークを自動化するツールも容易に導入できるため、業務の効率化が可能です。定型業務から解放された社員は、その時間をさらに重要な基幹業務に集中できるので、生産性向上にもつながります。顧客へのスピーディな対応や新しい商品・サービスの企画などに時間を割けるのは人材活用として大きな魅力です。
イノベーションにつながる
サイロ化が解消されると、生産性向上とともにイノベーションが生まれやすい社内環境を構築できます。AIやIoTシステムで需要を予測できるようになるため、これまで気づかなかった業務の無駄を発見や、顧客ニーズの発掘も可能です。統合データで情報共有を図れば、他の部署で収集したデータが営業部門のヒントになるなど、新しいビジネスアイデアの発見や、経営改革につながる本格的なイノベーションも期待できます。社内データに必要な情報を組み合わせ、より多角的な解析やブレインストーミングも実行できます。
システムのサイロ化を解消する方法
システムのサイロ化を解消するには情報システムの統合が必要です。ここでは情報システムを統合する方法について3通り解説します。
1.ひとつのシステムに集約する
ファイルやアプリケーションを複数の情報システムで保管している場合、どれか1つに絞り、元々あるシステムに集約する方法です。例えば顧客に関する情報は、営業部門では顧客との折衝や契約履歴、サービス部門では問い合わせやアフターサービスの記録、経理部門では請求・支払い状況のデータと部門ごとに分散しています。顧客に関する情報を一元的に1つのシステムに統合するだけで、顧客情報のサイロ化は解消できます。
既存のシステムを活用するため、新たなツールの導入費用は必要なく、初期費用を抑えられる方法です。ただし、統合する既存のシステムに高い負荷がかかるため、それに耐えうる機能要件を満たしているか注意が必要です。使用しているシステムの仕様や要件、設計などが確認できる場合に適用できます。
2.新しいシステムに集約する
データ統合のためのシステムまたはソフトウェアを新しく導入し、データを統合する方法です。データが分散したシステムはそのままの状態で、データを統合できるソフトウェアがあります。分散したシステムデータをほとんど操作せずにデータ統合を実現できるので、短期間でシステムのサイロ化を解消することも可能です。
データ分析ツールも準備されているケースが多いため、データ統合後の解析も心配せずに済みます。ただし、社内のIT環境やデータの種類に適したデータ統合方法や分析ツールが利用できるか確認することが必要です。
3.データだけを連携・集約する
既存のシステムをそのまま使用し、業務データだけを連携・集約することで一元管理する方法です。通常は複数のデータベースからデータの抽出・収集、変換・加工、格納先の配信・送出ができるETLツールを使用します。ETLツールを用いれば、社内に分散しているデータの収集から目的に応じた変換、格納先の送り出しとデータ単位で統合する環境を作り出すことが可能です。
ETLツールはデータ形式や文字コードの違い、作成者によって異なるファイル形式、用途に応じた加工の必要性などの課題に対応するため、データの整理・整頓ができるツールとして誕生しました。非構造化データのコンテンツ管理や、データとコンテンツの分離ができるので、業務に応じたアプリケーションも選びやすくなります。システムのサイロ化解消に素早く対応したい場合に適した方法です。
まとめ
サイロ化は組織の各部門やシステムが自己完結し、部門やシステム間の連携がうまくいかない状態です。システムのサイロ化に陥ると業務効率の低下、顧客満足度の低下、意思決定スピードの鈍化、不要なコストの発生など多くのデメリットがあります。システムのサイロ化解消にはデータ統合が必要です。既存の1つのシステムに集約、または新しい統合システムを導入する、もしくはETLツールを使用してデータのみ連携・集約する方法があります。
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- データマネジメント