働き方の多様性や業務効率化が重視される昨今、オフィス以外の場所で従業員が業務をこなせるデジタルワークプレイスの環境が注目されています。本記事は、デジタルワークプレイス導入を検討する企業担当者向けに、概要、メリット、課題、導入手順を詳しく解説します。
デジタルワークプレイスとは?
デジタルワークプレイスとは、コミュニケーションから実務的な作業にいたるまで、仕事におけるすべての業務をオンライン上で遂行・完結できる仕組みのことです。デジタルワークプレイスは、オンライン会議やビジネスチャットなどのコミュニケーションツール、クラウドストレージやワークフローシステムなどのコラボレーションツール、業務に必要な各アプリケーションなどで構成されます。クラウド環境のITツールを活用し、物理オフィス同様に仕事ができる環境を実現します。
デジタルワークプレイスが注目を集める背景
多くの企業がテレワークを導入したことで、デジタルツールの重要性が高まりました。現代では、場所を選ばず効率的に業務を行える環境が求められています。クラウドの進化によって、柔軟な働き方が可能になった現代では、ワークライフバランスを重視する声も多くなっておりますが、デジタルワークプレイスはこれらの実現に貢献します。
DXの推進
デジタルワークプレイスはDX推進の課程で形成された概念であり、DXを加速するための重要な基盤となります。効率化には、統合的なデジタル戦略の推進と、業務のオンライン完結が求められます。このような考えから、あらゆるデジタルツールを一括で管理できるプラットフォームの必要性が高まっています。
場所や時間に捉われない柔軟な働き方は、従業員のワークライフバランスの改善に大きく貢献する要素です。デジタルツールを用いた業務の可視化や分析によって、業務プロセスを最適化すれば、さらなる効率化が実現します。また、近年のセキュリティ技術の向上も、デジタルワークプレイス普及の後押しとなっています。
多様な働き方の拡大
これまでの物理的なオフィスを中心とした働き方から、柔軟な働き方を選択できる環境への移行が進められています。在宅ワークやフレックス制が浸透したことで、オフィス以外で働く従業員にも、業務を遂行するための環境を提供する必要性が高まりました。デジタルワークプレイスによる、コミュニケーションとコラボレーションの円滑化は、チームワークの維持・向上を可能にします。柔軟な働き方の選択は、いまや従業員にとって不可欠なものです。人材確保の観点からも注目されており、この点からもデジタルワークプレイスは注目されています。
市場の変化による労働人口確保や競争優位性獲得の必要性
企業が競争力を強化するには、優秀な人材を獲得するだけでなく、その人材を定着させて長期的に活躍してもらう必要があります。少子化により、労働力確保が課題となっていますが、業務効率化や生産性向上に貢献するデジタルワークプレイスは、労働力不足をカバーする対策の1つとして期待されています。
また、場所や時間を選ばない働き方ができるため、遠方に住む人材の雇用を実現できたり、育児・介護での離職を減らしたりする効果が見込めるのも利点です。デジタル化によって加速する市場変化に対応し、競争優位性を保つためにも、スピード感のある意思決定を実現するデジタルワークプレイスの必要性が高まっています。
デジタルワークプレイスの導入がDX推進に寄与する効果
業務プロセスの効率化には、コミュニケーションツールやコラボレーションツールの活用が欠かせません。データ分析ツールやクラウドストレージの活用は、意思決定のスピードアップを可能にします。市場変化に対応できるデジタルワークプレイスは、競争力向上に不可欠です。
業務の効率化・質の向上
デジタルワークプレイスの自動化や最適化は、大幅な業務効率化につながります。ファイル共有やオンライン会議、ビジネスチャットなどを活用することで、これまで移動や連絡のために要していた手間は大幅に削減されます。また、ペーパーレス化により、印刷・押印作業が減り、コスト削減につながります。
さらに、定型的な業務であれば、自動化によって一斉に処理を行えるようになります。単純作業の省人化に有用なRPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)ツールによって、ルーチン業務を自動化すれば、臨機応変な対応や応用力が求められる業務にリソースを集中できます。自動化は、入力ミスなどのヒューマンエラー防止にも有効です。
従業員のエンゲージメント向上
デジタルワークプレイスは、作業効率を向上させるため、従業員1人あたりにかかる負担を削減できます。また、テレワークやハイブリッドワークを推進できるため、従業員それぞれの事情に合わせた働き方に対応できるのもメリットです。
通勤のストレスが緩和されることに加え、これまで移動に要していた時間を有効活用できるようになると、従業員エンゲージメントは向上しやすくなります。デジタルワークプレイスは、組織力の強化だけでなく離職の防止にも効果的です。
イノベーションの促進
柔軟な働き方によって休息時間を確保しやすくなると、従業員はリフレッシュした状態で業務に取り組めるようになります。また、自由な場所で働くことにより、新たな発想が生まれやすくなります。イノベーションを促進させるには、従業員同士が積極的にコミュニケーションツールを活用し、情報共有や共同作業を円滑に進められる環境が必要です。
アイデアの創出や議論が活発化するための仕組みは、凝り固まった概念にとらわれない革新的なアイデアや技術を生み出す上で非常に重要です。さらに、データ分析やAIによるサポートが意思決定のプロセスを迅速化するため、アイデアの実現性を高めることにも貢献します。
デジタルワークプレイスを導入する上での課題
デジタルワークプレイスの導入では、デジタルツールの導入にかかるコストや運用体制、セキュリティリスクのほか、勤怠管理・人事評価の方法など、多岐にわたる課題を克服しなければなりません。デジタルツールの導入コストは、オンプレミス型よりもクラウドサービスの方が大幅に初期費用を抑えられます。ただし、クラウドサービスを利用する場合、一定のランニングコストが発生します。
また、多様な場所やデバイスから社内ネットワークに接続するため、セキュリティリスクを理解した上で、十分な対策を講じることも大切です。IDとパスワードの認証だけでなく、多要素認証を導入するなど、ゼロトラストの概念に基づいたセキュリティ対策が求められます。さらに、オフィス以外の場所で働く従業員の勤務状況を把握することが難しいという課題もあります。
人事評価の課題を解消するために、貢献度や成果を考慮した評価基準を整備することも必要です。勤怠管理の公平性を確保できるよう、クラウド型の勤怠管理システムを活用するのも有効な手段です。
デジタルワークプレイス導入で意識したい「5Any」
5Anyの考え方は、目的に応じたクラウドサービスやセキュリティ製品などを効果的に組み合わせ、理想とするデジタルワークプレイス環境を構築するために役立ちます。デジタルワークプレイスを導入する際は、以下に挙げる5Anyを意識するようにしましょう。
■5Any
- Anytime(いつでも)
- Anywhere(どこでも)
- Anybody(誰でも)
- Any Device(どのデバイスでも)
- Any Application(どのアプリケーションでも)
デジタルワークプレイス導入の手順
デジタルワークプレイスを導入する際に、計画的なステップを踏まずに進めてしまうと期待する効果を得られない可能性が高くなります。場合によっては、業務効率の低下やセキュリティリスクを高めることにもつながりかねません。スムーズな移行と定着を実現するために、それぞれのステップにおけるポイントを押さえておきましょう。
1. 目的と課題を明確にする
現状を分析し、導入目的と自社の課題を明確化します。必要なツールや機能を適切に選択できるよう、従業員にヒアリングを実施して情報を収集します。組織内で目的を共有し、スムーズな連携をはかるために、導入計画のロードマップを作成するのも有効です。
2. インフラ・システムを整備する
デジタルワークプレイスの導入において、既存のIT環境との統合やクラウドベースでの運用可否を確認します。クラウドストレージのアクセス権限やバックアップ体制などの設定、適切なデバイスの見直しを行った上で、必要に応じて新システムを導入します。
3. セキュリティ対策を実施する
クラウドベースのデジタルワークプレイスは、外部からのアクセスすべてが信頼できない前提で行う、ゼロトラストモデルのセキュリティ対策が有効です。ログ監視や多要素認証、VPNのクラウド化など、社内外を問わないセキュリティ対策を行うことで、利便性と安全性の両立を目指します。
4. 定期的に評価と改善を繰り返す
デジタルワークプレイスの運用開始後は、実際にシステムを利用する従業員の意見を聞きながら定期的な評価と改善を行います。必要に応じて目的を修正し、新たな課題が発見されれば改善に向けた取り組みを行います。評価と改善のサイクルを繰り返すことで、より使いやすいデジタルワークプレイスを構築していくことが大切です。
デジタルワークプレイス導入に寄与するツールや施策等
デジタルワークプレイスの導入を成功させるには、適切なツールを選定し、定着に向けた効果的な施策を検討する必要があります。
VDI(Virtual Desktop Infrastructure)
VDI(Virtual Desktop Infrastructure:仮想デスクトップ)とは、CPUやデータといったデスクトップのリソースを仮想化する技術です。自宅や拠点にはデスクトップ画面だけが転送されるため、セキュリティ面や管理面で運用しやすく、社内インフラのテレワーク対応に適しています。VDIソリューションにはオンプレミス型とクラウド型がありますが、近年ではクラウド型の利用が増えています。また、サービスバリエーションも多様化が進んでおり、デジタルワークプレイスの新たな潮流として改めて注目されるようになりました。
オンライン会議
働き方の多様化に対応するためには、オンライン会議ツールの活用が欠かせません。特定の場所に参加者が集合することなく、Web上の会議室に集まるだけですぐにコミュニケーションが取れるため、移動時間やコストを大幅に削減できます。テレワークを実践している企業にとって、今や必須のツールとなっています。
オンラインストレージ
働く環境を問わず、インターネットを介してファイルを共有できるオンラインストレージも、デジタルワークプレイスの構築に欠かせません。同じチームの従業員が異なる場所で仕事を進める際でも、気軽にアップロードやダウンロードができるファイル共有スペースを設けることで、情報を共有しながら円滑に作業を進められます。また、必要に応じて顧客先でファイルを閲覧することも可能です。オンラインストレージは、さまざまなワークスタイルの実現に貢献します。
ビジネスチャット
近年、ビジネスコミュニケーションの主流はメールからビジネスチャットへと移行しています。ビジネスチャットなら、メールよりも気軽にメッセージのやり取りができ、簡単なミーティングにも対応できます。また、やり取りの履歴が時系列で蓄積されるため、後でミーティングの内容を振り返り、確認することも可能です。チャット上でファイルを共有できるため、迅速な情報伝達が実現します。
社内SNS
社内SNSは、コミュニケーションに特化したビジネスチャットと違い、情報発信として高い効果が見込めるツールです。役職や部門の垣根を越えたコミュニケーションが実現すれば、アイデアが生まれやすくなり、新しい企業文化が活発に創出される可能性が高まります。
グループウェア
複数の従業員が共同で作業を行うことが可能なグループウェアは、チームの全体のコミュニケーションをスムーズにするだけでなく、効率的な共同作業を可能にします。クラウドサービスを導入すれば、システム運用管理の負担を心配せずに高度なセキュリティ環境下でのコミュニケーション基盤を整備できます。現在では、コミュニケーション、スケジューリング、ドキュメント共有、プロジェクト管理など、ビジネスを遂行するためのさまざまな機能やツールを備えた製品があります。
ナレッジベース
情報共有のためのツールとして社内ポータルサイトを活用するケースも増えています。従来の社内掲示板をWebサイトとしてデジタル化すれば、リアルタイムで情報を更新・共有できます。また、長期にわたって過去の情報を蓄積していけるのもメリットです。最近では、蓄積したデータをAIによって解析し、社内のナレッジベースとして顧客サポートの品質向上にも役立てるケースも増えています。
RPA(Robotic Process Automation)
デジタルワークプレイスと併せて、業務の自動化・効率化ツールとして注目されているのがRPAです。RPAは、経理や総務などにおける、定型的な繰り返し業務を自動化するために活用されています。他にも、デスクトップのアプリケーション内で自動化を実行するRDA(Robotic Desktop Automation:ロボティック・デスクトップ・オートメーション)があります。どちらも管理業務部門の経費精算や出勤表の打刻など、繰り返しのデータを大量に処理する際に用いると大幅な効率化を実現することが可能です。
セキュリティと認証基盤
セキュリティや認証基盤は、安全なデジタルワークプレイスを構築する上で、欠かせないシステム基盤です。データの作成、移動、保存、保管、共有などを行うには、エンドポイントやネットワーク経路、データの保管先などで高度なセキュリティ対策が求められます。また、クラウドサービスや社内システムでも、社員が時間や場所を問わずアクセスできる環境を整備する必要があります。近年では、多要素認証とシングルサインオンを組み合わせるなど、強固なセキュリティと利便性を兼ね備えたさまざまな認証基盤が構築されるようになりました。
デジタルワークプレイスはツールを複合的に組み合わせる
デジタルワークプレイスは多様な働き方を実現するだけでなく、生産性の向上や従業員満足度の向上、競争力の強化やイノベーションの促進に寄与します。
自社内にデジタルワークプレイスを構築する際、いくつかのツールを導入するだけでは不十分であり、コミュニケーションツールやワークフロー、クラウドストレージなど、目的にあわせた複数のツールを組み合わせることが必要です。
また、導入後も評価と改善を繰り返し、より使いやすくブラッシュアップしていくことも忘れないようにしましょう。
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