近年、注目を集めているビジネスモデルのひとつがD2Cです。さまざまなメリットを得られるビジネスモデルであるため、これから取り組みを始める企業も増えることが考えられます。本記事では、D2C形式のビジネス展開を検討している企業に向けて、導入するメリットやデメリット、成功へ導くポイントなどを解説します。
D2Cとは
具体的なメリットやデメリット、取り組みのコツなどを学ぶ前に、D2Cとはどのようなビジネスモデルなのか、まずは概要を把握しておきましょう。また、BtoCやSPAとの違いを知れば、D2Cへの理解がさらに深まります。
D2Cの概要
D2Cとは、Direct to Consumerの略であり、ECサイトに集客した顧客に、メーカーが直接商品を販売するビジネスモデルです。たとえば、家具メーカーが自社製造のテーブルやイスをECサイトで販売するケースが該当します。
従来、メーカーの製品は卸業者を通じて小売店に行き渡り、販売されていました。一方、D2Cでは卸業者や小売店が介在せず、メーカーがECサイトを通じて消費者へダイレクトに商品を提供します。ここが大きな違いです。
国内外を問わず、D2Cのビジネスモデルは浸透しつつあり、日本国内における成功事例も少なくありません。有名ランドセルメーカーやメンズコスメブランド、ビジネスウェアブランドなど、多様な業種で広がりを見せています。
D2CとBtoCの違い
BtoCとは、Business to Consumerの略で、企業と消費者のあいだで行われる商取引を指します。D2Cとの大きな違いは、商品が消費者の手元に届くまでのプロセスです。
一般的なBtoCのビジネスモデルは、スーパーやコンビニなどの小売店が、卸業者やメーカーから商品を仕入れて消費者に販売します。メーカー→消費者、ではなく、メーカー→卸業者→小売店→消費者のような流れになるのがBtoCです。
もうひとつ似た言葉にBtoB(Business to Business)がありますが、こちらは企業間における商取引を指します。たとえば、家電メーカーが電子部品の製造会社から部品を仕入れる、といったケースが該当します。BtoBでは、顧客が一般消費者ではなく企業や団体などの法人であることが特徴です。
D2CとSPAの違い
SPAとは、Specialty store retailer of Private label Apparelの略で、製造から販売までをすべて自社でまかなうビジネスモデルです。アパレル業界で誕生したビジネスモデルであり、アメリカを中心に広がりました。
企画、製造した商品を小売店で販売し、プロモーションも自社で手掛けます。製造から販売までを自社で行うためD2Cと混同されがちですが、大きな違いがあります。
SPAは商品を店頭で販売するケースがほとんどですが、D2CはECサイトでの販売がメインです。前者は展開した直営の店舗で販売を行うことが多い一方で、後者は店舗をもたずオンラインで商品を提供します。
D2Cが注目される背景
D2Cが注目される背景として、ECサイト利用者の増加やECサイト構築のハードル低下が挙げられます。また、コロナ禍による店頭での販売不振や、サブスクリプションサービスの台頭もD2Cに注目が集まる理由と考えられます。
ECサイト利用者の増加
インターネットやモバイル端末の普及に伴い、ECサイトの利用率も高まっています。Glossom株式会社が実施した「ソーシャルコマースに関する定点調査2021」によれば、ECサイトの利用率は15~19歳の男性で77%、女性が81.2%、30代男性が84.2%、女性が88.7%、50代男性が91.7%、女性が87.7%との結果になりました。
この調査から読み取れるのは、10代後半から70代までの男女すべての年齢層においてECサイトの利用率が高いということです。つまり、従来のビジネスモデルに頼らずとも、自社でECサイトを構築し直接販売できる体制を整えれば、利益を得られる時代になったのです。
国内には大手ECサイトや通販サイトが複数ありますが、競合も多く参入したところで簡単に利益を得られるとは限りません。一方、自社のECサイトで販売経路を確保するD2Cなら、顧客を囲い込むことで利益拡大につなげられる可能性があります。
参照:「ソーシャルコマースに関する定点調査2021」Glossom株式会社
ECサイト構築のハードル低下
ひと昔前では、ECサイトの構築は簡単ではありませんでした。自社で構築するとなれば専門の人材やサーバーなどの設備が必要となり、多大な労力とコストが発生します。しかし、IT技術の発達やクラウドサービスの普及により、現在では比較的容易にECサイトの構築が実現できます。
クラウドサービスであれば、自社サーバーが不要であり、初期コストを大幅に抑えられます。しかも、それほど時間をかけずにクオリティの高いECサイトを構築でき、スムーズに運用を開始できます。
クラウドサービスの利用で気になるのはセキュリティリスクですが、高水準のセキュリティ環境を整備しているサービスを利用すれば、セキュリティリスクを引き下げられます。
コロナ禍による販売店の不振
世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスは、経済にも大きな影響を及ぼしました。感染リスクをおそれて外出を控える人が増加し、多くの小売店や飲食店は閑古鳥が鳴く状態が続いたのです。
業績不振に苦しむ小売店や飲食店がある一方で、利益拡大を成功させたのがオンラインショップやデリバリーサービスです。他人との接触を控えたい消費者や、リモートワークなどで中食需要が増加したためです。
D2Cに注目が集まったのも、このような背景があったためです。ECサイトでダイレクトに商品を提供するビジネスモデルであれば、人との接触をできる限り避けたい場合や、外出自粛により自宅で食事を済ませたい消費者のニーズに応えられます。
サブスクリプションの台頭
近年、さまざまなサブスクリプションサービスが台頭しています。サブスクリプションとは、毎月決まった金額を支払うことで、商品やサービスを利用できるビジネスモデルです。
サブスクリプションはD2Cとの相性がよく、実際にさまざまな企業が2つのビジネスモデルをうまく組み合わせて事業に活かしています。サブスクリプションであれば、消費者は低コストで商品やサービスを利用でき、リピーターの獲得につながるメリットがあります。つまり、サブスクリプション×D2Cであれば、消費者をリピーター化して囲い込むことができるのです。順調にリピーターを増やせば、長期的な利益の安定にもつながります。
D2C導入のメリット
D2Cを導入することで考えられるメリットは複数あります。たとえば、コスト削減や自由度の高いマーケティング施策の実施、価格競争の回避などが挙げられます。
手数料などの諸経費が削減できる
D2Cの導入により、さまざまな諸経費を削減できます。従来とは違い、商品が消費者のもとへ届くまでに複数の企業が介在せず、中間マージンや手数料などが発生しないためです。
物流にのせる従来のシステムだけでなく、大手ECサイトやECモールへ出店・出品する際にもさまざまなコストが発生します。手数料が発生するほか、売上の何割かがロイヤリティとして徴収される場合もあります。
一方、自社のECサイトで直販するスタイルであれば、このようなコストは発生せず、利益の最大化を図れます。ただ、ECサイトの運営においては、決済手数料やサーバー料金、メンテナンス費用などのコストはかかるため、完全に諸経費をなくせるわけではありません。
制限なしの自由なWebマーケティング施策ができる
大手ECサイトやECモールを利用すると、さまざまな制約を受けます。ルールが決められているため、それに則ったビジネスしかできません。商品の訴求は決められたフォーマットに沿う必要があるため、商品の雰囲気や企業イメージに合ったサイトデザインができません。また、オリジナルプロモーションも制限や条件が設定されていることが多く、独自性が打ち出しにくいので他社との差別化が困難です。
一方、D2Cであればビジネスを縛るものは何もなく、自由にマーケティングを展開できます。ブランドの世界観を存分に演出でき、SEOやメルマガ配信、アフィリエイト、Web広告など、自由度の高いWebマーケティングが可能です。
通販サイト内での価格競争が起きない
大手通販サイトやECサイトで販売している場合、価格競争に巻き込まれるケースが少なくありません。競合の1社が大幅な値下げを行い他社も次々と追随すれば、自社もそれに従うしかなくなってしまいます。そうしないと、安いショップに消費者が流れるためです。
自社ECサイトであれば、このような事態を回避できます。なぜなら、自社ECサイトで販売しているのは自社だけだからです。消費者に自社の商品をじっくり見てもらえるので、競合と価格を合わせる必要もありません。価格競争に巻き込まれなければ、利益率の低下も防げます。
顧客との関係を強化
D2Cは、直接消費者に商品を販売するビジネスモデルであるため、顧客との関係を強化しやすいメリットがあります。たとえば、取得したメールアドレスにメルマガを送る、SNSで情報を発信するなどして接点を持ち続ければ、良好な関係を長期にわたり継続できるでしょう。
また、消費者の声がダイレクトに届くのもメリットです。ECサイトに問い合わせや相談の専用フォームを設けておけば、消費者から商品に関する要望や意見、クレームなどをダイレクトに受け取れます。このような消費者のリアルな声を商品やサービスに反映させていけば、商品の改善や新規商品開発のヒントにもなり、顧客満足度の向上にもつながります。
D2C導入のデメリット
D2C構築のデメリットとして、高額な初期コストの発生や集客施策の必要性などが挙げられます。メリットとデメリットをどちらも理解したうえで、D2C導入の可否を判断しましょう。
初期の構築コストが高額になる
自社でECサイトを構築する必要があり、高額な初期コストが発生します。手法の違いで費用は異なるため一概にはいえませんが、数十万円から数百万円、数千万円以上かかることもあります。
ECサイト構築の代表的な手法としては、フルスクラッチやパッケージ、クラウドEC、オープンソース、ASPなどの利用が挙げられます。もっとも初期費用が高くなりがちなのは、既存のプログラムやサービスを用いず、ゼロベースから構築するフルスクラッチです。
もっともコストを抑えられるのはオープンソースです。公開されているプログラムを利用して構築するため、費用がかかりません。カスタマイズ性にも優れるメリットがありますが、構築にはプログラミングやコーディングの知識、技術が必要です。
集客を自社で行う必要がある
ECサイトを構築し公開しただけでは、消費者を呼び込めません。アクセス数を増やすには、SEOの徹底やWeb広告、SNSの活用など、積極的なマーケティング施策を行う必要があります。
認知度が高く一定のブランド力があるのなら一定のアクセス数が期待できます。しかし、そうでないのなら集客のマーケティング施策が必要です。まずはECサイトの存在を知ってもらわないことには、売上にもつながりません。
Webマーケティングにおける近年のトレンドは、動画広告やインフルエンサーの活用です。動画広告は映像や音声で消費者に訴求でき、InstagramのようなSNSとの相性も抜群です。また、影響力のあるインフルエンサーに情報発信してもらう手法も、高い集客効果が期待できるでしょう。
D2Cで成功するポイント
やみくもにD2Cへ取り組んでしまうと、失敗してしまう恐れがあります。少しでも早くD2Cビジネスを軌道にのせるべく、成功に近づくポイントを踏まえたうえで取り組みを始めましょう。
自社の商品力を高める
ECサイトで商品販売を行うD2Cのビジネスモデルで成功するには、商品力の強化が欠かせません。なぜなら、店舗販売のように商品と消費者をつなげる「人」が介在しないためです。
有人店舗であれば、スタッフが商品の魅力やメリットなどを直接伝えることで、購入につながる可能性があります。消費者も、商品の新たな魅力を発見したりその場で疑問点や不明点などを解決でき、納得したうえで購入を決断できたりします。
一方、オンライン販売は店舗がないうえに、消費者とやり取りして商品の魅力を伝えるスタッフも存在しません。そのため、商品自体に需要や魅力がなければ売れないのです。
商品力を強化するため、自社が扱う商品を一度客観的に見てみましょう。メインターゲット層の視点に立ったとき、その商品を購入したいと思えるでしょうか。消費者がどのようなものを求めているのか、他社と差別化はできているかなどを考え、商品力の強化に努めましょう。
自社のブランド力を高める
ブランド力が低いと、ECサイトを構築しても集客できません。企業や商品があまり認知されておらず、インターネットで検索される確率も低いためです。そのため、ブランド力が低い企業は自社のファンを増やし、ECサイトへ自然とアクセスが集まるような仕組みを構築しなくてはなりません。
そのためには、ブログやオウンドメディア、SNSなどを用いたマーケティングが必要です。メインターゲット層にとって有益な情報を発信し、積極的にコンタクトもとるなどして、顧客のファン化を進めましょう。
Webマーケティングノウハウを蓄積する
予算に限りがある中小企業がD2Cを成功させるには、Webマーケティングの活用が欠かせません。ブログやオウンドメディア、SNSなどを活用するWebマーケティングは、低コストで成果を得やすいメリットがあります。
Webマーケティングの効果を最適化するには、正しい方法で取り組み、継続的なノウハウの蓄積が求められます。自社に専門人材がいないのなら新たに人材を採用する、社内で育成する、専門企業に外注するなどの対策も考える必要があります。
サブスクリプションなどの顧客を囲い込む手法
D2Cを成功に導く鍵はリピーターであるといっても過言ではありません。何度も商品を購入してくれるリピーターを増やせば、利益の拡大と安定化を図れます。
ただ、ECサイト販売において顧客に何度も商品を購入してもらうのはなかなか大変です。Web上にはたくさんの競合が存在し顧客を奪い合っているため、リピーターも安定しません。そこで、顧客の囲い込みの方法としてD2C×サブスクリプションを行えば、定期的に商品を届けることで、安定した収益が見込めます。
実際、D2C×サブスクリプションで成功を収めた企業は少なくありません。たとえば、株式会社メディアハーツ(現ファビウス株式会社)は、D2Cとサブスクリプションモデルの組み合わせにより、フルーツ青汁をヒットさせました。また、アメリカのカミソリメーカーであるダラー社も、このビジネスモデルを導入し成功しています。
D2Cの失敗事例
D2Cの失敗事例として、商品力が欠如したままECサイトを展開してしまったケースが挙げられます。このケースでは、明らかに日本では受け入れられない商品を販売しようとしてしまい、プロジェクトメンバー全員のモチベーションも低下してしまいました。
また、外注したマーケティング会社に仕事を丸投げして失敗した事例もあります。Webマーケティング会社に依頼したからといって、必ず成果が得られるわけではありません。マーケティングの方向性や具体案の協議、施策の立案や結果分析の共有等を欠かさず行わないと認識のずれが生じ、失敗するリスクが高まります。
アメリカと比較した日本のD2Cとの違い
D2Cは、もともとアメリカで誕生したビジネスモデルです。ただ、日本とアメリカではD2C事情が異なるため、アメリカの成功事例をそのまま流用する前に、日本の事情をよく把握する必要があります。
小規模の展開でも成立する
元来 、日本人には義理堅さやコミュニティを大切にするという土壌や古くから人との関係性を大切にする民族性があります。そのため、伝統工芸品など小規模なD2Cビジネスであっても、ニッチな固定ファンを獲得しやすい傾向があります。
小さな規模で取り組みを始めるのなら、リスクを抑えられるメリットもあります。いきなり大規模なビジネスを展開して失敗すると、リカバリーが困難です。
一方、アメリカのD2Cは投入するコストの規模が大きく、最先端の商品ほどよく売れる傾向があります。このあたりは、国民性が大きく関わっているのかもしれません。
高品質のものが購入されやすい
日本では、多少値段が高くても品質のよいものが購入されやすい傾向があります。「安物買いの銭失い」のことわざがあるように、日本人は高品質の商品やサービスを好む消費者が多いのです。
一方のアメリカでは、安くて高品質なものが好まれます。アメリカ人をはじめとした外国人が、日本の100円ショップに強い関心を示すこともその一例と言えるでしょう。
まとめ
コロナ禍の影響でECサイトの利用者が増加し、IT化の普及に伴いECサイト構築のハードルも下がっています。サブスクリプションサービスの台頭もD2Cに注目が集まる理由です。
消費者に直接商品を提供するD2Cのビジネスモデルであれば、コストを削減でき利益の最大化も図れます。D2Cは、マーケティングの自由度の高さや価格競争の回避、顧客との関係強化などさまざまなメリットがあります。Webマーケティングを効果的に取り入れるなど、ポイントを抑えて取り組めば成功の確率が高まるでしょう。
D2Cの本場はアメリカですが国民性や環境などが大きく異なるため、日本では小規模展開でも質の高い商品を提供できれば、ファンを獲得しやすく成功率が高まるでしょう。
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