DX人材って何? 採用・育成のポイントや重要なスキルを解説

 2022.07.21  2024.03.22

近年、さまざま分野でDXの実現が喫緊の経営課題となっています。DXを実現するためには、優れたデジタル技術を導入するだけでなく、深い知識と高度な技術を要する「DX人材」の存在が不可欠です。本記事ではDXの本質的な目的や意義を解説するとともに、DX人材に必要な適性や重要スキル、育成のポイントなどをご紹介します。

デジタルトランスフォーメーション(DX)に 取り組むエンタープライズ企業の成功と挫折の現状

DXについておさらい

「DX」とは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称で、「デジタル技術の活用による変革」を意味する概念です。DXという概念は2004年に当時ウメオ大学で教鞭をとっていたエリック・ストルターマン氏によって提唱されました。教授は論文「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE(※1)」の中で、DXを「ITの浸透が社会をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という意味合いで定義しています。

2000年代初頭に提唱されたDXの概念が国内で注目を集めるようになったのは2018年頃であり、その背景にあるのは経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」です。経済産業省は2018年に発表した「DXレポート(※2)」の中で、企業がレガシーシステムを抱え続ける危険性について触れています。企業が既存システムを温存しDX化を進めなければ、2025年以降に年間12兆円規模の経済的損失が生じる恐れがあると指摘しています。

さらに国内では人口減少や高齢化率の上昇、生産年齢人口の減少などの社会問題が顕在化しており、様々な分野で就業者の高齢化や人材不足といった課題が深刻化しています。こうした現状を打破するには、レガシーシステムのブラックボックス化を解消するとともに、デジタル技術の活用によってイノベーティブな組織体制を構築しなくてはなりません。このような背景から国内でDXが大きな注目を集めるようになり、その実現が喫緊の経営課題となっているのです。

(※1)参照元:INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE(p.3[689])|Erik Stolterman
(※2)参照元:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(p.26)|経済産業省

CTC の DXノーマル時代に向けた取り組みと事例紹介-DATA SHIFT編-
Digital Transformation Next ~シリコンバレー発DXレポート~(CTC DX Days 2021 chapter2 講演資料)

DX人材の適性を測る6つの要素

DXの本質的な目的は単なるIT化ではなく、デジタル技術を活用して組織体制に変革をもたらし、市場における競争優位性を確立することにあります。DXの本質的な目的を実現するためには、組織の変革を推進していくDX人材が欠かせません。「独立行政法人情報処理推進機構(IPA)」では、2020年に発行したレポート(※3)にて、DX人材の適性を測る要素として以下6つのポイントを挙げています。

1.不確実な未来への創造力
「変革」は姿や性質の変容ではなく、物事を根本から新しくすることを意味する概念です。大きな変革には相応のリスクが伴うものであり、DXの推進にはその規模に応じた不確実性が内在しています。DX人材は不確実性という危険要因を最小化するリスクマネジメントへの深い理解と、取り組むべき領域を自ら定め、新分野への取り組みをいとわずその実現に向かって挑戦していく主体的な姿勢が求められます。

2.臨機応変/柔軟な対応力
現代は情報通信技術の進歩に伴って市場の変化が加速しており、顧客ニーズは多様化かつ高度化し、製品や技術のライフサイクルが短命化していく傾向にあります。このような社会的背景の中で組織体制の変革を推進していくためには、企業を取り巻く環境の変化に対して、場合によっては方向転換を行い、柔軟に対応しなくてはなりません。DX人材は計画や戦略を立案・策定するマネジメント力のみならず、外部環境の変化に対して臨機応変に対応できる柔軟な対応力が必要です。

3.社外や異種の巻き込み力
どれだけデジタル技術やマネジメントに精通していても個人の力には限界があり、DXは一人の力で実現し得るものではありません。DXの本質的な目的を実現するためには、ビジョンを示して組織全体を変革へと方向付けるような、周囲を巻き込む力を持つ人材が求められます。DXを実現するためには、意見の相違を受け入れる包容力と対立する人間を巻き込む度量、そしてチームをまとめる統率力を持った人材が必要です。

4.失敗したときの姿勢/思考
失敗を恐れることなく、経験を糧として前進していく姿勢もDX人材に求められる資質のひとつです。物事にはコインの表と裏のように必ず二面性があり、ひとつの事象でもどの視点から見るかで物事の捉え方は大きく異なります。一時的な躓きはDXの実現に向けた成功への過程に過ぎず、その経験からどのような学びを得るかが重要です。したがって、DX人材は進取果敢に物事を進める行動力と同時に、失敗から学ぶ謙虚な姿勢と物事を俯瞰的に見る大局的な視点が求められます。

5.モチベーション/意味づけする力
組織体制の抜本的な変革を実現するためには、物事を深い領域で洞察し、意味づける力をもつ人材が不可欠です。人材のパフォーマンスを最大化するためには、報酬や罰則などの外部要因に依存する受動的なモチベーションではなく、探究心や好奇心などの内発的動機付けに基づくモチベーションが欠かせません。物事に価値や可能性を見いだし、意味づける力をもった人材を登用することで、周囲の自発的なモチベーション向上に寄与し、組織全体を牽引する原動力となります。

6.いざというときの自身の突破力
DXと一言でいっても、そこにはビジョンの策定や新規プロジェクトの立ち上げ、システム環境の刷新、既存業務の改善、データドリブンの推進、人材配置の最適化、人事評価制度の見直しなど、様々なプロセスが存在します。こうした取り組みの数に比例して障害や問題が立ち塞がるため、困難な状況に陥った場合でも前向きに解決方法を模索し、壁を打ち破る突破力を備えた人材が求められます。

(※3)参照元:デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査|独立行政法人情報処理推進機構

DX人材とはどんなスキルを持った人材か

DXは「デジタル技術の活用による変革」を意味しますが、経済産業省はDXを以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(※4)」

この定義を実現するためには、関わる人材がIT分野やデータ活用などに精通しているのはもちろん、マネジメント領域に関しても深い知見を備えている必要があります。さらに、マーケティングへの理解やプロジェクトを推進するリーダーシップ、見込み客の潜在需要を捉える分析力や消費者インサイトを発掘する洞察力など、様々な領域における総合的なスキルが求められます。

AIやIoT、クラウドコンピューティングなど、デジタルソリューションを導入するだけではIT化の領域を脱するのは困難です。DXを実現するためにはデジタル技術の有用性を深く理解し、自社の事業戦略に必要なソリューションを見極め、組織体制の抜本的な変革をリードしていくDX人材が欠かせません。イノベーティブな組織体制を構築し、競合他社にはない付加価値を創出するためには、いかにしてDX人材を採用・育成するかが重要な経営課題です。

(※4)引用元:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(p.2)|経済産業省

DX人材の不足は深刻

近年、DXの実現を経営課題として推進しつつも、いわゆるIT化の領域にとどまり、実現に至っていない企業が少なくありません。その理由の一つとして挙げられるのがDX人材の不足です。現在、国内の総人口は2008年の1億2,808万人(※5)をピークに下降の一途を辿っており、2021年9月時点のデータでは総人口に占める高齢化率の割合が29.1%(※6)と世界で最も高い水準となっています。

このような社会的背景から、国内の様々な産業や分野で人材不足が叫ばれており、とくにその傾向が顕著なのがIT分野です。IT分野は専門的な技術と知識が要求されるという背景も相まって人材不足が深刻化しており、2021年に総務省が公表したデータよると、DXを推進する国内企業の53.1%(※7)が深刻な経営課題に「人材不足」を挙げています。

先述したように、デジタルソリューションを導入するだけではIT化の領域を脱するのは困難であり、DXの本質的な目的を実現するためにはDX人材の発掘と育成が重要な課題です。みずほ情報総研株式会社の調査では、2030年になるとIT人材の不足数は約45万人(※8)に達すると試算されており、DXの注目度の高さと相まって、DX人材の獲得における競争性は今後さらに苛烈さを増していくと予測されます。

(※5)参照元:人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)結果の要約|総務省統計局
(※6)参照元:統計からみた我が国の高齢者(p.1)|総務省
(※7)参照元:令和3年版情報通信白書(p.103)|総務省
(※8)参照元:IT人材需給に関する調査(p.20)|みずほ情報総研株式会社

DXの推進に欠かせない7つの役割とは

DX人材にはIT分野に関する知見だけでなく、ビジョンを形にする創造力や変化に対する柔軟な対応力、周囲を巻き込みながら積極的かつ大胆に物事を進める行動力など、様々な資質やスキルが求められます。ここではDXの推進に欠かせない7つの役割について、具体的な職種に落とし込みながら解説します。

プロダクトマネージャー

企業が中長期的に発展していくためには、競合他社にはない優れた顧客体験を提供するプロダクトを設計・開発しなくてはなりせん。その役割を担うのが、プロダクトのライフサイクル全体を総合的に管理するプロダクトマネージャーです。プロダクトマネージャーは、製品やサービスの背後にあるビジネス上の戦略を中長期的な視点から立案・策定し、DXの実現を主導するリーダー的な人材を指します。

ビジネスデザイナー

組織の変革を推進していくためには、常識にとらわれない柔軟な発想力やアイデアを具現化する創造力、ビジョンを企業文化として浸透させる資質が求められます。このようなアイデアを事業化する計画を立案し、その実現へ向けて具体的な仕組みを構築するのがビジネスデザイナーです。既存の枠を取り払い、イノベーティブな組織体制の構築を推進する上で不可欠となる人材です。

テックリード

DXの推進にはエンジニアやプログラマーなどを含むエンジニアチーム全体の生産性向上に照準を定め、プロジェクトを牽引していく人材をテックリードと呼びます。テックリードはコードの品質担保に対して責任を負う立場であり、ITに関する高度な知見を要するのはもちろん、人材マネジメントへの深い理解や他部署や別チームとの協働を図る調整能力が求められます。

データサイエンティスト

情報爆発時代と呼ばれる現代では、企業が取り扱うデータの総量が指数関数的に増大しているため、蓄積されたビッグデータをいかにして事業領域に活用するかが重要です。この膨大なデータを統計解析や情報科学などを用いて多角的に分析し、意思決定に役立てる専門家をデータサイエンティストと呼びます。データサイエンティストは様々な解析手法を駆使し、事業活動における課題を解決へと導く高度な専門知識が求められる職種です。

先端技術エンジニア

現代は第4次産業革命の過渡期といわれる時代であり、AIやIoTによる技術革新が加速度的に発展しています。このような時代の中で企業が競争優位性を確立するためには、ディープラーニングや機械学習、IoTセンサーやブロックチェーンなど、最先端のデジタル技術に精通したエンジニアが必要です。先端技術エンジニアがこうした最先端技術を扱うことで、業務プロセスの省人化や製造ラインのオートメーション化、あるいは高精度な需要予測などが可能となり、DXの実現に大きく貢献します。

UI/UX デザイナー

情報通信技術の加速度的な進歩に伴って市場の成熟化が進み、製品やサービスが飽和状態にあるため、現在は競合他社との差別化が困難な状況にあります。このような中で顧客や消費者に選ばれるために必要となるのが、ユーザーの「使いやすい」「楽しい」「心地よい」を実現する優れたUIとUXの設計です。UI/UXデザイナーは機能や性能などの機能的価値だけではなく、ブランド価値やエンゲージメントといった情緒的価値を創出する資質が求められます。

エンジニア/プログラマー

企業が描くビジョンや理念を実現するためには、ITインフラの保守・運用管理やシステムの実装などを担当する人材が不可欠です。その役割を担う人材がエンジニアとプログラマーであり、プロダクトマネージャーやビジネスデザイナーが立案した計画やアイデアの実現に向けて、要件定義や仕様の策定、システムの設計といった業務領域を担当します。

DXの推進のために変革のリーダーが求められている

日本企業は極めて保守的で均質性が高く、基本的に組織風土や企業文化の変化を好まない傾向にあります。しかし、経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」が差し迫るなか、現状維持に甘んじる組織体制では市場環境の変化に対応できません。経営基盤やビジネスモデルの変革を実現するためには、企業の在るべき姿を思い描き、意義ある明確なビジョンを提示するリーダーが必要です。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行ったアンケート調査(※9)によると、DX領域で採用・育成すべき人材像として最も多かった回答は「DXを主導するリーダーの存在」であり、次に「業務プロセス改革を牽引できるビジネスパーソン」「ビジネスデザイナー(デジタル技術を活用した事業を構想できる人材)」と続きます。デジタルの領域に精通したリーダーがいてこそ技術者が輝ける環境が整うため、まずは組織の変革を牽引していく人材が求められるのです。

(※9)参照元:DX白書2021(p.102)|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

DX人材を採用するには

DXとはデジタルソリューションを導入することではなく、その技術を最大限に活用し、経営基盤やビジネスモデルそのものに変革をもたらすことです。そのためにはDX人材の存在が不可欠であり、組織の変革を牽引していく人材を採用・育成していかなくてはなりません。DX人材を発掘するためには、以下に示す5つの要素が重要なポイントです。

ジョブ型雇用の導入

DX人材を発掘する有効な方法のひとつが「ジョブ型雇用」の導入です。ジョブ型雇用とは、人材採用において職務内容を明確に定義し、その領域に特化したスキルや経験をもつ人材を獲得する採用方式です。職務範囲を具体的かつ明確に定義することで即戦力の採用につながると同時に、専門分野に精通した人材を育成しやすい点が大きなメリットです。

人材教育の強化

DX人材を獲得するためには、採用だけではなく育成にもリソースを集中しなくてはなりません。とくにDXを推進していく上で既存の業務プロセスに大幅な変化が生じるため、変革に応じて新たなスキルを獲得しなくてはなりません。このような環境の変化に対応するためのスキル習得は「リスキング (Reskilling)」と呼ばれています。変化の加速する現代市場の中で、競争優位性を確立するために従業員のスキルをアップデートしていくことは、組織に必須の取り組みとして世界的にもその重要性が叫ばれています。

必要な技術を明確にして人材採用を行う

DXの実現という最終目標はひとつでも、何をもって変革と定義し、どのようにしてゴールに至るのかという過程に絶対的な正解はありません。企業の事業形態や組織体制、参入市場などによって必要な技術や人材は大きく異なります。DXを推進していく方向性を定め、その実現に必要なソリューションを見極めることで、自社が真に求める人材像が明確になります。

スピード感をもって採用に当たる

人材採用では、人的資源としての能力や自社のビジネスモデルに対する適性を慎重に見極めなくてはなりません。しかし、DX人材の獲得における競争性は苛烈さを増しているため、採用に時間をかけすぎると競合他社に出し抜かれるおそれがあります。だからこそ、自社に必要となる技術を明確化するとともに、職務内容に特化したジョブ型雇用を実施する必要があるのです。

DX人材が活躍できる組織体制を整える

DXを推進していく上で最も重要な課題のひとつは、変化を歓迎するとともに、失敗を受け入れる企業文化の醸成です。保守的で均質性が高い組織は集団浅慮が発生しやすく、批判的に評価する能力が欠落する傾向にあります。DX人材を獲得し、その能力を最大限に引き出すためには、人材の個性や多様性を受け入れることや、変化の加速する市場に対して柔軟に変容していく環境整備を行うことが重要です。

まとめ

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、デジタル技術の活用による組織体制の抜本的な変革を意味する概念です。AIやIoT、クラウドコンピューティングなど、最先端のデジタル技術を活用することでイノベーティブな経営基盤を構築し、市場における競争優位性を確立することがDXの本質的な目的です。そして、DXの実現を推進する上で不可欠となる人的資源が「DX人材」です。

DX人材にはデジタル技術に関する知見はもちろん、マネジメントへの深い理解や他者を巻き込むリーダーシップ、不確実な未来への創造力や柔軟な対応力など、様々なスキルが求められます。今後DXの重要性や注目度はますます高まることが予測され、人材獲得競争はさらに苛烈さを増していくでしょう。DX人材の採用には、自社がどのような技術でどのような変革を進めるのかを明確化し、そのうえでジョブ型雇用を導入したり、加速するIT技術の変化に合わせて既存従業員のリスキリングの体制構築を行ったりする必要性も叫ばれています。

DX人材を獲得し、その能力を最大限に引き出すためには、個性や多様性を受け入れる企業文化の醸成や、市場変化に柔軟に対応していける環境整備などを行うことが重要です。

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