金融機関や小売業、商社など様々な業種業態で急速な普及をみせるRPA(Robotic Process Automation:ロボティック・プロセス・オートメーション)。RPAとは、パソコン上の業務を自動化し、業務効率を大幅に向上するためのITソリューションです。
大手総合総社である伊藤忠商事では、年間100のロボットを稼働させることを目標とし、定型業務の大幅な自動化を実現しています。最も顕著なのは、データの転記などを行う情報収集業務で、年間148時間にもおよぶ作業の自動化を達成(※1)し、転記ミスの削減にも寄与しています。
では、こうした効果を得ることで企業はどういった課題を解決できるのでしょうか?今回はこの点に焦点を当てて話を進めていきます。
※1参考情報:UiPath社公表の導入事例「伊藤忠商事」より
日本企業にありがちな課題
現在、多くの企業では、業務改革として全社を挙げたDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めています。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が発表したレポート(※2)によると、“従業員規模1,001名以上の77.6%がDXに取り組んでいるが、従業員規模100名以下ではDXに取り組んでいる企業が3割弱となった。従業員規模によりDXへの取り組みに差が見られる。”
といった調査結果となっており、IT不足が顕著だと回答する1,001名以上の従業員規模になると、8割近くがDXの取り組みを進めていると回答しています。
一方で、DXを推進するIT人材については、異なる結果がでています。
“300名以下のIT企業で「大幅に不足している」割合が低下している。31名以上100名以下のIT企業では11.0ポイント、30名以下のIT企業では8.9ポイント低下している。一方で301名以上のIT企業では「大幅に不足している」割合が上昇しており、特に301名以上1,000名以下のIT企業では9.3ポイント上昇している”
※2 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)社会基盤センター:IT人材白書2020 「いまこそDXを加速せよ」
つまり、業務量が増加すると想定される、従業員数が301名を超えたところを境にして、IT人材不足は顕著になっています。
そこで、これら日本企業の多くに共通する悩みに対して、RPAを導入することにより解決することができる経営課題についてご紹介します。
人材不足
日本では世界でも類を見ない人口減少国家であり、当然ながら労働人口も減少の一途をたどっています。2017年に行った「みずほ総合研究所」の調べでは、2065年までに現時点(2017年当時)から見て労働人口が約6割まで落ち込むという予測です。
これに伴い、日本の各企業では慢性的な人材不足に陥っています。大企業など海外人材を受け入れる体制がある場合は別ですが、中小企業の多くは人材不足によって業務負担が増加しているのが現状です。
RPAはこの人材不足という深刻な経営課題へダイレクトに効果を発揮します。自動化ロボットの開発で定型業務を自動化することで、前述した伊藤忠商事様のケースにも見られる通り、労働時間を大幅に短縮して業務負担を軽減。人材配置の最適化や、単純作業を行う人材採用を抑えることができます。
システムの複雑化
既存ITシステムの維持は、新しいITシステムの導入コスト以上に経済的負担がかかります。ITへの積極的な投資が始まってから20年以上が経過し、その間企業では様々なITシステムが導入されてきました。
そのため社内のシステム環境は極度に複雑化し、部門ごとにサイロ化(分断化)されたITシステムは管理に大きな負担をかけています。さらに、それぞれの業務システムは個別最適が進んでいることもあり、また、構築されているテクノロジーの年代もまちまちであることが多く、各ITシステムのインターフェースをすべて自動化することは難いため、必ず人手による情報の移行が発生します。これが業務負担を増大させる原因でもあり、業務上のミスを発生させる原因でもあります。
RPAは、サイロ化されたITシステムをまたいだプロセスでも、自動化することができます。そのためITシステムの構築環境や複雑性に依存することなく、業務そのものを自動化し大幅に業務効率化することができます。
生産性向上
日本は世界的に見て労働生産性が非常に低い国家です。OECD(経済協力開発機構)の調査※3によると、昨年の日本の「時間当たりの労働生産性」は46ドルでした。これは米国の3分の2程度の水準であり、OECD加盟35ヵ国中では20位に位置します。主要先進7ヵ国で見ると、1970年以降最下位の状態が続いています。
こうした労働生産性の低さを改善するために様々な業務改善策が取り組まれていますが、実態に即した施策を展開できないことから失敗事例が後を絶えません。
生産性向上でまず大切なのは正しい業務量の把握と、自動化による業務作業の軽減です。その上で様々な施策を展開するからこそ、従業員のワークスタイルに変革を起こして生産性向上効果をさらに高められます。
本来行うべき作業なのかどうか、また、システム間をまたぐプロセスを手作業でフォローしているのではないか?など、業務の流れを正しく見直すことで、RPAの適用箇所が明確になります。RPAの導入は、そうした業務生産性向上のきっかけを与えるITソリューションでもあります。
コア業務への集中
ビジネスでより高い付加価値を生むには、本来専念すべきコア業務に人材を配置し多くの時間を割り当てることが大切です。たとえば経理部門のコア業務と言えるのは、正確な集計やデータの分析、さらには売上や業績の見通しを立て、必要な報告用のレポートを作成することです。一方で、実状としては、大量に発生する見積書や注文書、請求書の管理や、そこから必要な情報を転記しての再集計など、コア業務を行うために必要となるサブ的な業務が多く発生します。
RPAを活用することでサブ業務のなかでも定型的な処理を自動化し、人手を介してしか対応できない非定型業務や本来実施すべきコア業務に人材を集中させることができれば、自ずと業務の生産性も向上していきます。
採用コスト削減
中途採用者を1人会社へ迎え入れるためには、平均で40万円の求人広告がかかり、諸費用を加味するとトータルで80万円~300万円もの採用費用がかかると言われています。
そこで、人員計画を立てる際にも、部門ごとの業務内容を見直し、人員の配置が必要な業務であるのか、適切に判断することで不要なコストを抑えることができます。
新しい人材を採用することだけが解決策ではなく、RPAなどのITソリューションを活用することで徹底的に業務効率を改善することも可能です。
RPAによる業務プロセスを確立することで、24時間365日無停止で業務プロセスを回すことも可能となるため、人員補充だけでは賄いきれなかった、新たなサービス提供も創出することができます。
作業の属人化
業務プロセスを複雑にしている原因の一つが「属人化」です。特定の人材しかできない作業が発生することで、同時並行的に業務処理を実行することが難しくなり、プロセスのボトルネックが生じるため、業務量に応じた処理能力を確保することもできなくなります。
しかし、一見属人化している業務も、実施している内容は一定のルールに基づいた判断で対応できるなど、実はルール化やマニュアル整備によって定型化できるものも多く含まれています。RPAの導入をきっかけに、属人化している業務内容自体にメスをいれて、どうすれば汎用的な業務処理に置き換えられるかを検討することで、RPAを使った自動化の恩恵のみならず、属人化を排することでリスクも回避でき、業務量に応じた柔軟な処理能力を確保することができます。
まとめ
いかがでしょうか。今までごく当たり前に実施していた業務も、RPA(Robotic Process Automation)を導入することで、実は簡単に自動化することができ、社員が消費していた貴重な時間をより生産性の高い業務に割り当てることが可能となります。
また、新たに業務が追加される場合なども、RPAの利用を前提にプロセスを設計することで、貴重な人材資源を浪費することなく、業務エリアの拡充を進めることができます。
業務改善が必要な領域であれば、ほぼ必ずPRAの適用箇所も存在すると考えることができます。RPAの導入を前提に、業務の見直しを進めてみてはいかがでしょうか。
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