企業で働く人々の生産性向上と働き方改革を目的にRPA(Robotic Process Automation)が盛んに導入され、大きな話題になってからすでに久しいものがあります。ところが今、新たな動きが顕著に見られます。本記事ではRPAを巡って、RPA2.0とも言うべき企業のギアチェンジの方向性とその理由、検討すべきポイントを解説します。
RPAツールの入れ替えを検討するのはどんな時か
日本の先進的な大手企業がトライアルを含めてRPAの導入に乗り出したのは、2016年頃でした。その後、あっという間に浸透が進み、2020年頃には大企業の約8割が何らかの形でRPAを使ってバックオフィスなどの現場業務の自動化に取り組むことになりました。その後もDX(Digital Transformation)の流れに乗って自動化対象の業務範囲を広げています。
ところが、業務の自動化対象を広げると言っても、過去の考え方の延長線上で連続的に広げれば済むわけではありません。RPAが進む先としていくつかのベクトルがあります。プロセスマイニングツールによって業務を可視化しさらなる業務効率化を追求するベクトル、AI(人工知能)を活用して反復作業だけでない新たな段階の自動化を目指すベクトル、そして部門から全社あるいは関連会社へと大きくウィングを広げてグループ会社全体の生産性向上に乗り出すベクトルなどです。
RPA含むデジタル化の進化の背景に、日本企業が急ぎ生産性を上げ、その成果を製品・サービスの価値向上に注ぐ必要に迫られていることがあります。下記の図は、総務省による2023年の調査です。デジタル化推進に向けて日本企業が具体的に取り組んでいる事項について「業務プロセスの改善・改革」や「業務の省力化」、「新しい働き方の実現」との回答が多いことが分かります。一方、諸外国では働き方や業務の改革に加えて「顧客体験の創造・向上」や「既存製品・サービスの高付加価値化」との回答も多く、彼らが競争力の強化に目を向けている様が想像できます。先進的な日本企業は生産性向上を早々に成し遂げて、競争力の強化という本来のDXに取り組もうとしています。
出典:総務省(2023)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」
移行にあたってチェックすべきこと
こうした背景から、RPAにおいても先に述べたいくつかのベクトルで自動化を飛躍的に発展させる取り組みが進められています。いずれもRPA2.0と呼ぶのに相応しい進化であり、従来とは不連続な一線を越える取り組みとなるため、新しい考え方とそれに沿ったツールの再検討が必要となります。
そこで、RPAツールの検討においては、プロセスマイニングやAIなどの新機能に対応しているか、提供ベンダーがそれらの新技術に将来も安心できる十分な投資をしているかなどのチェックが必要となるでしょう。
進化のベクトルの中でも、グループ会社への展開ともなるとセキュリティを含めた管理機能の点もチェックをするのが望ましく、RPAのツールやベンダーはもちろん推進組織の在り方の再検討、さらに情報システムやインフラに精通するパートナー企業の支援が重要になります。この点について、もう少し説明しましょう。
企業事例――RPAのグループ展開のポイントとは(1)
ロボットの推進・運用体制の再検討
ある大手の建設企業が進めている、RPAの関連会社を含めたグループ展開の取り組みを紹介します。その会社が最初にRPAを導入したのは2016年。当初はバックオフィス業務の効率化が目的でしたが、2022年頃からRPAのさらなる強化と拡張を目指し、グループ会社への展開も検討したところ、旧RPA製品はオンプレミス主体であり、クラウド化、ネットワーク化したグループ展開が困難であることが分かったのです。AI対応や将来的な市民開発への適応のしやすさの観点からも新しいRPAツールの全面採用を決断しました。
RPAツールのほかに、ロボットの推進・運用体制の再構築も検討する必要があります。これには同社の戦略性が参考になるでしょう。同社は、従来そのためのコア組織を本社の情報システム部門内に置いていましたが、それをグループ内の情報システム子会社に移管しました。これには2つの意味があると言います。
まず、グループ会社からロボットの作成を依頼するときに本社の情報システム部門では敷居が高く、同じグループ内の子会社の方が依頼をしやすいと考えたこと。ロボット作成に組織面で気を遣うことで生産性向上に差し障りがあってはならないからです。もう1つは、情報子会社が業務としてロボット作成を引き受けることは、すなわち事業収益となります。すると、開発のモチベーションが上がりますし、新機能を積極的に使う機運も生まれます。
加えて、ロボットの標準化や部品化を進めることでロボット開発の生産性も上がります。同社では、開発したロボットをグループ会社に「派遣」する形も想定しており、その点においても推進・運用の体制を情報子会社に集中させるメリットがあると考えています。
企業事例――RPAのグループ展開のポイントとは(2)
ロボットの移行をどう考えるか
RPAツールの移行に伴い、それまで使ってきたロボットをどうするのか。基本的には新しいツールによって作り直す例が多いようです。ただし、全てのロボットをそのまま引き継ぐのかどうかは企業の判断次第となります。上記の企業では、それまでに開発した100あまりのロボットを新しいRPAツールのものに移行することにしました。一見無駄と見てしまいがちな作業を逆手に取って、同社は増員したロボットの開発陣の訓練・強化に利用しました。それもじっくり時間を掛けて、各人が新しいロボット開発のスキルを付けることを狙いました。
ロボットのガバナンス問題
グループ展開に当たり、同社の担当者にとって気掛かりだったことがありました。それは、グループ企業とはいえ別の会社なので、セキュリティを尊重しつつRPAの全体的なガバナンスを確保するにはどうすればよいか、ということでした。このグループ展開の勘所を押さえる点については、幸い同社と長いお付き合いを続け、同グループのインフラやネットワークを熟知しているパートナー企業が支援することで、様々な問題が解決に至りました。
まとめ
RPAは現場の繰り返し作業の自動化により業務の生産性向上と働き方改革に貢献してきました。今、日本企業は生産性の向上を急ぎ、その成果を製品・サービスの価値向上に注ぐ必要に一層迫られています。RPAによる業務自動化においても一段の飛躍が求められており、その方向性にはいくつかのベクトルがあります。
いずれの方向性でもRPAツールの再検討、またRPA推進・運用体制の再構築、ロボットの作り直しなどから避けずに取り組む必要があります。ただし、全社展開やグループ会社展開など運用の規模が大きく、ガバナンス面で複雑になるときは自社だけで解決することが困難になることがあります。その際は、ベストプラクティスを積み上げたパートナーの支援を活用することは有力な選択肢となります。
CTCは最有力RPAベンダーであるUiPathのプラチナパートナーとして、数あるビジネスパートナーの中で最も高い技術力・サポート力を有し、UiPathソリューションの導入支援、販売実績の大変豊富な存在です。
- カテゴリ:
- デジタルビジネス全般