令和4年7月に経済産業省が公開したDXレポート 2.2では、「デジタル産業への変革に向けた具体的な方向性やアクション」として、デジタルを収益向上に活用し、経営者が行動指針を示すことや、経営者の価値観を外部へ発信し同志を集めて新たな関係を構築する、という3つのアクションが提示されています。日本でもDX推進が求められてから約5年が経過し、すでに成果をあげている企業がある一方で、効果が確認できないとか、未だに取り組んでいない企業もあります。こうした状況を打破するために、どのような対策やサービスが求められるのでしょうか。国内で数多くのDX推進を手掛けてきたエキスパートが、その秘訣や成果を語ります。
登壇者プロフィール
株式会社プロジェクトカンパニー
常務執行役員 埴岡瞬
神戸大学卒業、出版社のDX/新規事業創出を支援するベンチャーに入社、その後ファッション系ECモール企業へ転職し、小売業界におけるグロースハックプロジェクトを多数担当、社内の新規事業立ち上げも担う。2020年にプロジェクトカンパニーへ中途入社後、自動車/小売/商社/不動産など幅広く業界大手企業の新規事業創出/デジタルマーケティング支援を行う。2023年より同社の常務執行役員に就任(現任)。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
新事業創出・DX推進グループ DXビジネス推進事業部 DXコンサルチーム
シニアエグゼクティブエンジニア 亀田 積
10年以上IT業界でアプリケーション開発を中心にIT全般に従事した後、2000年に入社。Webアプリケーション開発支援やSOA推進、開発技術全般の社内標準化を担当。2009年から流通、エンタープライズシステム事業を経て、アジャイル開発推進、新規事業に関連するサービス開発を推進。2022年から現職
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
エンタープライズ事業グループ デジタルビジネス推進第1部 DX・モデルシフト推進課
エキスパートエンジニア 菰田 哲也
2007年、中途入社。エンタープライズ企業のシステム企画・構想、自社ソリューションの企画に従事。その後、お客様の情報システム部門への出向や、社内の新規事業創出プログラムの企画・運営、コーポレートベンチャーキャピタルの企画・運営の経験を経て、2021年より現職。経済産業大臣登録 中小企業診断士。
DXレポート 2.2から読み解くデジタル産業変革の必要性
滝澤氏
DXレポート2.1では、ユーザー企業とベンダー企業はともに「低位安定」の関係に固定されてしまい、個社単独でのDXが困難な状況にある、と指摘されていました。さらに、同レポートの2.2では、産業全体として変革する必要性を提言していますが、実際に多くの企業でDX推進をサポートされてきた皆様は、個々の企業の取り組み課題や現状をどのように受け止めていますか。
亀田氏
私どものお客様の多くは、取り組みの規模感や領域に差はありますが、かなりDX推進に取り組んでいます。レポートで指摘されているような課題は感じられません。ただ、そもそもDX推進に積極的ではない企業では、私どもとは距離が離れているので、お話をする機会がないのかも知れません。
埴岡氏
企画部門がしっかりしているエンタープライズやミッドエンタープライズ企業では、DXに積極的に取り組まれています。反対に、年間のIT予算が限られている中小企業では、そこまでコストをかけられないため、国内全体の企業数で俯瞰すると、DXに取り組んでいない企業が多いと受け止められているのではないでしょうか。
菰田氏
中小企業が自発的に自社のビジネスをデジタル化するのは難しいかも知れません。大企業が取引先や系列を巻き込んでデジタル化を推進する一環で、意識していなくても、結果的にDXを推進しているケースもあるでしょう。
DXに足踏みする企業が抱える課題
滝澤氏
大企業の中には、企画部門やDX推進部門が中心となって、着々と成果を出して新しい段階に踏み出しているケースもあるようですね。その一方で、DXレポートが指摘しているような、新しい価値を生む領域での投資が遅れていると感じることはあるでしょうか。
亀田氏
新しい価値創造に積極的に投資している企業は、まだ少数派だと受け止めています。
埴岡氏
どうしても、短期的に効果が見えやすい業務BPRのような守りのDXに取り組む例が多いと思います。効果が見えにくい新しい取り組みのためには、指標(KPI)から設計していく必要があります。それに加えて、事業開発に取り組む意識や意欲が求められるので、攻めのDXへの思考はまだまわっていないと思います。
亀田氏
AIによる自動化などの相談は増えていると感じています。ただ、AIによるコスト削減への期待は高いものの、新しいビジネスやサービスへの取り組みとなると、まだ積極的だとは感じられません。中には、試作検証(PoC)まで進んでも、理想とのギャップで頓挫してしまうケースもあります。
滝澤氏
そうしたデジタル化での短期的な効果に対する期待が、DXの2周目に取り組もうとする企業が足踏みしてしまう理由の一つなのでしょうか。
埴岡氏
企業の中には、AI活用を華々しくプロモーションしたり、DX認定を受けたという事例もあります。その一方で、足踏みどころか一歩も踏み出していない企業もあるので、ばらつきがあると感じています。
DX推進を実現した事例に見る成功の方程式
滝澤氏
DXレポート 2.2では、IPAの作成したDX推進指標の経年推移を紹介しています。この推移では、DX推進の自己診断に取り組む企業は増えていて、成熟度レベル3以上という企業の割合も増加の傾向にあると報告されています。こうした指標は、DX推進を加速したいと考えている企業にとって、参考になる指標でしょうか。
埴岡氏
モニタリングを目的とした指標としては有益かと思います。ただ、DXを支援する我々のような立場からは、事業ゴールに向かって成果を見極めるための指標が求められます。
亀田氏
成熟度のスコアが上がっている企業が、実際にDX取り組みの成果を感じているかどうか、また別かもしれませんね。
滝澤氏
指標ではなく、成果としてDX推進に成功した事例には、どのようなケースがあるでしょうか。
埴岡氏
弊社の支援した事例でお話ししますと、大手商社で、DX時代に求められる営業戦略立案での成功事例があります。対面での営業がメインだった獲得チャネルに対して、コロナ禍の中でB2Bマーケティングや営業機能を見直し、数年単位の戦略策定とデジタルを活用したインサイドセールスを立ち上げました。その結果、デジタルチャネルの受注が増加して、全社の業績に貢献するという成果が得られました。
滝澤氏
攻めのDXにおける成功例といえますね。戦略策定から立ち上げまでをうまく推進できた理由は、どこにあったのでしょうか。
埴岡氏
お客様企業の中で、DX推進部を立ち上げて、組織がワンチームとして取り組めたからだと思います。我々の支援は、DX推進に向けたアセスメントなどの支援で、半年くらいで区切りがついたのですが、その後の施策まで伴走して立ち上げまでいきました。ポイントは、アセスメントとプランニングにあると思います。
滝澤氏
なるほど。一般的なDXコンサルティングでも、お客様企業のアセスメントやプランニングを行うと思うのですが、成功する事例と挫折してしまう企業には、どのような違いがあるのでしょうか。その点について、後半で皆さんに伺っていきたいと思います。
※部署名、役職名、その他データは公開当時のものです。
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