モノやサービスの買い手である顧客と売り手である企業の間の流通経路であり、媒体・接点でもある「チャネル」。デジタルファーストの社会・経済が進展するなかで、様々なデジタルチャネルが増加し、その勢いを増しています。とりわけBtoCの領域でスマホを中心としてデジタル化されているチャネルが、コロナ禍を経てBtoBの領域にも影響を及ぼしています。
「チャネル」とは
所謂「マーケティングの4P」の1つとして挙げられるチャネル(PLACE)。チャネルには以下の3つの概念が存在します。
- 流通チャネル
- 販売チャネル
- コミュニケーションチャネル
それぞれ順に解説します。
流通チャネル
モノやサービスが生み出されてから顧客に至るまでの経路を指し、経路上には生産者、卸売業者、小売業者、顧客(企業/消費者)が含まれます。自社を生産者としたとき、BtoBビジネスの主な流通チャネルは、①生産者(企業)から顧客企業への直接販売(BtoB)、②代理店や商社などの卸売業者を経由して、最終的に顧客企業または消費者に販売(BtoBtoB/C)のパターンがあります。
流通チャネルのデジタル化の影響というと、後述の販売チャネルがデジタル化されたことで、これまでBtoBまたはBtoBtoCの流通チャネルでビジネスを行っていた生産者が、消費者との直接取引(BtoC・DTC)に乗りだすことが比較的容易となっており、その市場は今後も成長が予測されます。
(経済産業省「令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書」)
販売チャネル
顧客にモノやサービスを販売する手段(場所など)を指します。BtoBビジネスにおけるリアルの販売チャネルとしては、対面での商談や店頭での接客、コールセンターが挙げられます。一方、デジタルの販売チャネルといえば、ECサイトがあります。
BtoB 、BtoCを問わず日本のEC化率が年々高まる中で、BtoBビジネスを行う企業においても、BtoB-ECに乗り出した企業もあるかもしれません。BtoBビジネスの商取引プロセス全体をECで完結できるケースはまだ少ないですが、コモディティ製品やデジタルサービスについてはECで完結するケースが増える可能性があります。
コミュニケーションチャネル
3つ目のチャネルが、企業と(潜在)顧客とのコミュニケーションチャネルです。
BtoBビジネスにおけるコミュニケーションチャネルは、コロナ禍の影響により従来の展示会やセミナー、訪問営業、商談といったオフラインチャネルの利用が困難となりました。このような状況下において、Webサイトやメール、SNSなどのオンライン=デジタルチャネルの重要性が高まるとともに、それらを通して行われるデジタルマーケティングの手法の活用が加速しています。
表:コミュニケーションおよび販売チャネルのリアル/デジタル別具体例
デジタル・コミュニケーションチャネルの特徴、メリット・デメリット
重要性が増しているデジタルチャネルですが、当然ながらそれぞれのチャネルで向き・不向きやメリット・デメリットがあるため、企業や取り扱う製品・サービス、顧客に合わせて最適なデジタルチャネルを選択することが重要となります。
以下、3つの代表的なデジタルチャネルについて見ていきます。
Webサイト
Webサイトは、企業やサービスのオンライン上の顔となる存在で、最も基本かつ重要なデジタルチャネルです。Webサイトを通じて企業自体や商品・サービスが持つ価値観やストーリー、提供価値、詳細な機能、得られるアウトカムを伝えることができます。
また、有益なコンテンツ(記事や動画)を提供するコンテンツマーケティングを実施することで顧客の認知を獲得し、関心を引き付けることも可能です。商品・サービスの詳細な機能やスペック、使い方や実績をホワイトペーパーの形で掲載し、企業名や担当者、連絡先などを入力の上でダウンロードさせることによって、顧客情報の取得が可能となります。これはBtoBビジネスでのリード顧客獲得手段として特に重要です。
ただ、質の高いコンテンツを制作・蓄積するにはそれなりの労力と時間、費用がかかり、効果を生むまでには長い期間を要するため、留意も必要です。
そもそもWebサイトは能動的にユーザーが検索したり、Web広告のリンクをクリックしたりしないとたどり着いてもらうことすら叶いません。SEO対策やWeb広告などを通してWebサイトを見てもらえる状況を作り出すことが必要になります。また、Webサイト閲覧後に、閲覧した人に何をしてほしいのか、どういう行動をとってほしいのか(問い合わせてほしいのか、定期的に訪れてほしいのか、など)、その後の行動を仕向ける仕組みが必要です。つまり、顧客が自社のWebサイトに至り、そして次へ向かう入口・出口の戦略を立てることが求められます。
メール
顧客にメールを送信することで、商品やサービスの情報を伝えるデジタルチャネルです。メールマーケティングをおこなうことで、顧客個人に直接アプローチすることが可能となります。登録さえしてもらえれば、プッシュ型のため企業が能動的に情報を送り込むことができる点はメリットです。複雑でなければメールの文面で直接内容を伝えることも可能ですし、Webサイトへ誘導することでさらに詳しい情報提供をすることができます。また、メールの開封状況を把握することで興味関心の度合いや内容を把握することも可能になります。
ただ、メールがチャネルとして機能するまでには、ハードルはいくつかあります。そもそもメールアドレスを登録してもらうところが第1のハードル。次に、送ったメールが認知され、開封されるところに第2のハードル。そして、メールの文中からWebサイトなどへのリンクがクリックされるところに第3のハードルがあります。コロナ禍を境に、メールが特に増えたと感じる人も多いのではないでしょうか。同一企業から1日に2通、3通、…とメールが届く中で、いかに他のメールに埋もれずに自社のメールを認知してもらい、さらに開封までたどり着いてもらうかは大きな課題となります。目につきやすく、興味を惹くよう、メール配信時間や件名、送信者名に工夫をこらす必要があります。
ソーシャルメディア
ソーシャルメディアとは、「インターネットを利用して誰でも手軽に情報を発信し、相互のやりとりができる双方向のメディア」(総務省「平成27年版 情報通信白書」)です。X(旧Twitter)、Instagram、Facebook、LinkedInといったSNSや、YouTubeなどの動画サイト、LineやMessengerなどのメッセージングアプリ、ブログ、食べログや価格コムなど情報比較・共有サイトなど広範なメディアを含みます。この10年でもっとも発展したデジタルチャネルがこのソーシャルメディアではないでしょうか。
(出典:ICT 総研調べ)
たとえば、SNSを通じてメッセージを伝えることで企業、商品・サービスの認知拡大・ブランディングをはかるだけでなく、ブログやSNSに投稿された情報の収集・分析(ソーシャルリスニング)を通じて顧客の声を拾ったり、顧客と双方向のコミュニケーションをとったりと、ソーシャルメディアのマーケティング上の活用先はさまざまです。こうしたソーシャルメディアの活用はBtoCビジネスで特に進んでいるイメージがありますが、BtoBビジネスでも活用の機会は増えています。動画サイトを通じた自社商品・サービスの紹介動画掲載やSNS広告の出稿、比較サイトへの広告出稿などが例として挙げられます。
ソーシャルメディア活用の注意点としては、その運用にあたって人的リソースを必要とする点で、リアルタイム性の高いメディアであるほど特に負担となりえます。また、インフォーマルな情報発信、コミュニケーションが求められるなかで、ときに不用意な発言や誤解を招く表現が問題、いわゆる「炎上」状態となった場合に、その対応に追われるだけでなく、企業や商品・サービスのレピュテーションを下げるリスクもあります。
ソーシャルメディアは特に認知拡大に役立つ可能性はありますが、直接的に売上・利益へとコンバージョンするわけではない一方で、コストをかけ、リスクを抱えるという点で、自社が利用できるリソースとメリット・デメリットを鑑みて取り組むことが求められるます。
リアルとの連携
先にも書いた通り、BtoBビジネスはデジタルチャネルだけで完結するケースは少ないです。よって、BtoBビジネスにおいてデジタルチャネルとリアルチャネルは補完関係にあるといえます。リアルチャネルで得た顧客の属性情報や顧客の行動情報をデジタルチャネルで連携共有して活用することで、より効果的なマーケティングが可能となります。
その際のポイントとしては、①顧客体験(CX)の一貫性を確保すること、②チャネルごとの特性を活かす、ことが挙げられます。
- 顧客体験(CX)の一貫性
リアルチャネルであれデジタルチャネルであれ、顧客にとっては一連の購買プロセスをたどっているに過ぎません。顧客がリアルとデジタルを行き来するなかで得られる体験に一貫性がないと、満足度は低下してしまいます。 - チャネルごとの特性を活かす
リアルチャネルには、店舗で商品を実際に手に取って確認したり、コールセンターや面談を通じて顧客と臨機応変に対話したりするなど、リアルチャネルならではの実現できることがあります。逆に、デジタルチャネルはリアルチャネルよりも容易に顧客や営業活動を「データ」としてとらえることができます。これらそれぞれの強みを活かすことが肝要です。
終わりに
BtoCビジネスのみならず、BtoBビジネスにおいても顧客と企業との間の「チャネル」には細かくみれば実に多くの種類があり、さらにコロナ禍後のニューノーマルの社会・経済において変化は加速しています。リアルとデジタル、さらにその中でどのチャネルが有効であるかは、企業のビジネスモデルやターゲット顧客、商品・サービスの性質などにより一概には言えません。デジタル、リアルを問わず顧客の一連の購買プロセス全体をとらえた体験設計とそれぞれの特徴を活かしたチャネル選択、マーケティング戦略の立案と実行を常に行うことが求められます。
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