リカーリングとは? ビジネスモデルやサブスクリプションとの違いを解説

 2022.07.21  2023.07.12

企業にとって重要な経営課題のひとつは、安定的な収益構造と強固な財務基盤の構築です。そのためには継続的な収益が見込めるビジネスモデルが必要であり、重要となるのが「リカーリング」という概念です。本記事ではリカーリングの仕組みや注目を集める背景について解説するとともに、具体的なメリットや企業の導入事例をご紹介します。

デジタル化を推進すべき”23の領域” とは?

リカーリングとは?

「リカーリング」について深く理解するためには、まず企業の存在意義とビジネスモデルの重要性を把握する必要があります。企業とは事業活動を通じて製品やサービスを生み出し、その付加価値を顧客や消費者に提供することで利益を得る組織です。そして、組織としての健全な成長を通じて地域社会の発展と平和に貢献することが存在意義であり、企業が中長期的に発展していくためには継続的に利益を生み出す仕組みを構築しなくてはなりません。

そこで重要となるのがビジネスモデルの確立です。これには多種多様な形態が存在するものの、大きくフロー型とストック型に分類されます。フロー型は売り切りを基本とするビジネスモデルであり、飲食店や家電量販店、Webサイトの制作やITシステムの設計などが該当します。一方でストック型は継続的な収益が見込める事業形態を指し、新聞や雑誌の定期購読、不動産の賃貸、士業の顧問契約などが代表的なビジネスモデルです。

フロー型とストック型のビジネスモデルはそれぞれに一長一短があり、どちらが優れていると比較するものではありません。しかし、現代は情報通信技術の進歩に伴って市場の変化が加速しており、継続的かつ安定的な収益が期待できるストック型のビジネスモデルが大きな注目を集めています。このストック型のビジネスモデルを確立する上で重要となる概念がリカーリングです。

リカーリングビジネスとは

Recurring(リカーリング)とは、日本語で「循環」や「繰り返し」を意味する概念であり、継続的な収益の獲得を目的としたビジネスモデルを「リカーリングビジネス」と呼びます。最も身近なリカーリングビジネスとして挙げられるのが、水道や電気、ガスといった社会構造を支えるインフラです。電気・水道・ガスなどは人々の暮らしに不可欠なライフラインであり、利用量によって売上が変動するものの、基本的には契約の継続と安定的な収益が期待できます。

インクジェットプリンターやコピー機なども、リカーリングビジネスの代表的な事例のひとつです。たとえば、プリンター機器のメーカーは機器の販売で単発的な利益を得るのではなく、インクカートリッジの販売による継続的な収益を主眼に置いています。プリンターを使用し続けるためにはインクカートリッジの補充や詰替えが必須であり、消耗品を継続的に必要とする仕組みを構築することで安定的な収益が見込めるためです。

また、先述したWebサイトの設計や開発はフロー型のビジネスモデルに該当するものの、制作後の保守・運用管理はストック型のリカーリングビジネスに該当します。その他にも携帯電話の通信事業やゲーム機の販売事業、定額制の通信サービス、会員制のジム、生命保険、クレジットカード、学習塾などもリカーリングビジネスの代表例です。このように、一回の売り切りではなく、製品やサービスを繰り返し利用するビジネスモデルを構築することで、継続的かつ安定的な収益を見込める点がスリカーリングビジネスの大きな特徴です。

リカーリングレベニューとは

「リカーリングレベニュー」とは、「循環」や「繰り返し」という意味のリカーリングと、「収益」や「収入」を意味するレベニュー(Revenue)を組み合わせた概念であり、会計の領域において継続する可能性の高い「継続収益」を意味します。このリカーリングレベニューの獲得を主眼に置くビジネスモデルをリカーリングビジネスと呼びます。

CTC の DXノーマル時代に向けた取り組みと事例紹介-DATA SHIFT編-
Digital Transformation Next ~シリコンバレー発DXレポート~(CTC DX Days 2021 chapter2 講演資料)

リカーリングとサブスクリプションの違い

「サブスクリプション」(Subscription)は「定期購読」や「継続購入」を意味する概念であり、製品やサービスを「販売」するのではなく、一定期間のみ「利用」する権利を定額で提供するビジネスモデルです。代表的なサブスクリプションモデルとしては、動画配信サービスの「Netflix」や音楽配信サービスの「Spotify」、Microsoftが提供するクラウドサービスの「Microsoft 365」、Amazonが展開する有料会員プログラムの「Amazonプライム」などが挙げられます。

リカーリングとサブスクリプションは、どちらもリカーリングレベニューを獲得するビジネスモデルを指しますが、厳密には収益構造が異なります。リカーリングは従量課金制と定額制の両方を含みますが、サブスクリプションは一般的に定額制の課金モデルのみを指します。つまり、継続収益が期待できるストック型のリカーリングビジネスという大きな枠組みに、サブスクリプションモデルが内包されます。

リカーリングが注目された背景

企業経営の領域においてリカーリングは古くから存在する概念であり、決して新しいビジネスモデルではありません。そんなリカーリングビジネスが近年注目を集めている背景にあるのは、「購買行動の変化」です。現代はインターネットの爆発的な普及によって顧客や消費者の情報リテラシーが向上しており、購買行動に「インターネットを活用した情報の検索と共有」が加わることで、競合他社との差別化が困難な時代になりつつあります。

さらにテクノロジーの発展とともに市場変化が加速しています。そのため、市場の成熟化と相まって製品のライフサイクルが短縮化していく傾向にあります。このような時代において、売り切りを基本とするフロー型のビジネスモデルでは、経営基盤の安定化を図るのは容易ではありません。変化の加速する現代市場で競争優位性を確立するためには、安定的な収益構造と強固な財務基盤の構築が不可欠であり、その実現につながるリカーリングビジネスが大きな注目を集めているのです。

リカーリングビジネスのメリット

継続利益の獲得を目的としたストック型のビジネスモデルを構築することで、どのようなメリットを組織にもたらすのでしょうか。ここではリカーリングビジネスの具体的なメリットをご紹介します。

売上予測が立てやすい

リカーリングビジネスは製品やサービスの利用が続く限り継続的な収益が見込めるため、売上予測を立てやすい点が大きなメリットです。企業が中長期的に発展していくためには、売上予測を正確に立てなくてはなりません。なぜなら、売上予測は経営目標の立案や事業戦略の策定、経営資源の配分調整など、事業活動の方向性を定める重要な指針のひとつであり、その精度が低ければ経営基盤の土台を揺るがしかねないためです。

たとえば、製造分野では売上予測に基づいて購買計画や生産計画、販売計画などを策定します。売上予測を誤れば大量の在庫を抱えてキャッシュフローの悪化を招いたり、反対に過小在庫によって販売機会を損失したりといった事態を招きかねません。リカーリングビジネスは継続的な収益を得られるため売上予測が立てやすく、さらに収集したデータを需要予測やマーケティングの領域に活用できるというメリットがあります。

継続的な関係が築きやすい

現代は市場の成熟化とともに、従来の購買行動にインターネットを活用した情報検索というプロセスが加わり、競合他社との差別化が困難となりつつあります。このような時代のなかで競争優位性を確立するためには、いかにして顧客接点を強化し、見込み客の購買意欲を醸成するかが重要な課題です。

そのためには、製品やサービスの機能的価値を高めるのはもちろん、継続的なコミュニケーションによって見込み客との良好な関係を構築し、競合他社にはない優れた顧客体験を提供しなくてはなりません。リカーリングビジネスはユーザーとの継続的な関係を維持しやすいため、見込み客の育成や既存顧客のロイヤルカスタマー化を促進し、顧客一人ひとりがもたらすLTVの向上に寄与します。

CPAを高く設定できる

ビジネスにおいて売上を拡大する方法には「顧客単価の向上」「リピート率の上昇」「新規顧客の獲得」などがあります。このなかで最も重要な経営課題であると同時に、最も多くのコストを要するのが新規顧客の獲得です。現代ではオウンドメディアやSNSなど、オンライン上のチャネルを活用したWebマーケティングの重要性が高まっており、多くの企業がインターネット広告を用いて新規顧客の獲得に取り組んでいます。

そんなWebマーケティングにおいて重要な指標となるのが、広告運用における顧客一人あたりの獲得単価を示す「CPA(Cost Per Action)」です。Webマーケティングの運用成果を最大化するためには、いかにしてCPAを低く抑えるかが重要です。売り切りを基本とするフロー型とは異なり、継続的な関係の構築に主眼を置くリカーリングビジネスはCPAを比較的高めに設定できるため、新規顧客の獲得に対して効率的に資金を投入できます。

リカーリングビジネスのデメリット

あらゆる物事には二面性があり、メリットの裏には必ず相応のデメリットが存在します。リカーリングビジネスのデメリットとして挙げられるのが「初期投資が赤字になる」と「競合による価格競争」の2つです。

初期投資が赤字になる

リカーリングビジネスは一度きりの取引ではなく、サービスの継続的な利用を前提として事業計画を策定するため、基本的に初期投資がかさむ傾向にあります。たとえば、先述したプリンター機器を安価で提供し、インクカートリッジの販売によって利益を得るビジネスモデルの場合、莫大な初期投資が必要となるのはもちろん、投資費用を回収できないリスクがあります。そのため、いかにして優れた顧客体験を提供し、ユーザーに繰り返し選ばれるサービスを創出するかという視点で事業戦略を構築しなくてはなりません。

競合による価格競争

どのようなビジネスモデルにもいえますが、市場規模が大きく、確かな需要のある分野は競合他社がひしめくレッドオーシャンです。注目を集めているリカーリングビジネスだからこそ新規参入も多く、激しい価格競争に巻き込まれる可能性も否定できません。資金調達手段が豊富で資本力に優れる大企業との価格競争で勝つのは困難なため、競合他社にはない独自性をどれだけ打ち出せるかが重要な課題です。

リカーリングレベニューの最適化

リカーリングビジネスにおいて最も重要な課題のひとつは、いかにしてリカーリングレベニューを最適化するかという点です。ビジネスモデルは基本的に「顧客」「付加価値」「提供方法」「収益構造」という4つの要素によって構成されています。どれだけテクノロジーが進歩してもビジネスの基盤となるのは人間関係であり、まずは顧客の潜在ニーズを把握しなくてはなりません。

顧客が何に悩み、どのような問題を抱え、どう解決したいと願っているのか、顧客分析や市場調査、需要動向などから探り出し、ターゲットが真に求める付加価値を創出する必要があります。そして、その付加価値をどのようにして提供するのかを仕組み化し、安定的かつ継続的な利益を得られる収益構造へと落とし込むことで、リカーリングレベニューの最適化に寄与するビジネスモデルが構築されます。

リカーリングビジネスの成功事例

リカーリングビジネスの成功事例の代表格として、米国のカミソリメーカーであるA社が挙げられます。同社は1世紀以上前にカミソリの本体を無料で配布し、替刃を継続的に利用してもらうことで継続収益を実現した企業です。製品を「所有」するのではなく、継続的に「利用」するという考え方によって成り立つビジネスモデルであり、同社はリカーリングビジネスにおける元祖と呼ばれています。

また、リカーリングビジネスの成功事例として挙げられるのが、国内の総合電機メーカーであるB社です。ハード部門の売上減で低迷していた同社は、家庭用ゲーム機での有料会員サービスのリカーリングビジネスに注力することで業績を回復させました。同サービスは加入者限定で映画関連商品を提供するなど、独自特典の展開で会員数やリピート率を増やし、安定収益を獲得しています。

まとめ

リカーリングとは「循環」や「繰り返し」を意味する概念であり、継続収益の獲得を目的としたビジネスモデルをリカーリングビジネスと呼びます。現代は情報通信技術の進歩に伴って製品ライフサイクルが短縮化傾向にあり、顧客ニーズの多様化や市場の成熟化と相まって競合他社との差別化が困難な時代になりつつあります。このような時代のなかで安定的な収益構造と強固な財務基盤を構築する方法に、リカーリングレベニューの獲得に主眼を置くビジネスモデルがあります。新しい時代に即したイノベーティブな経営体制を構築するためにも、リカーリングビジネスの実践に取り組んでみてはいかがでしょうか。

CTA

RECENT POST「デジタルビジネス全般」の最新記事


デジタルビジネス全般

「5年先、10年先を見通す次世代の仮想化基盤 Red Hat OpenShift Virtualization」

デジタルビジネス全般

ローコードとは?注目される背景や導入のポイントを解説

デジタルビジネス全般

OpenAI一強時代が到来?北米のトレンドから見る「AI市場」【後編】

デジタルビジネス全般

OpenAI一強時代が到来?北米のトレンドから見る「AI市場」【前編】

リカーリングとは? ビジネスモデルやサブスクリプションとの違いを解説
CTA

RECENT POST 最新記事

CTA

RANKING人気記事ランキング


OFFICIAL SUPPORTER