企業では、スマートフォンやタブレット、パソコンなど様々なデバイスで業務を行います。また、部署ごとに異なるシステムを使うことも多く、その中で取り扱う基本データを一元管理するプロセスがMDM(マスターデータマネジメント)です。本記事では、MDMの概要に加えて、メリットや導入の進め方を解説します。
MDM (マスターデータマネジメント)とは?
MDMとはMaster Data Managementの略称で、業務に必要な基本データを統合して一元管理することで、品質を保つ取り組みです。MDMは、システムや仕組みを指すのではなく、一連のプロセスを意味します。
注目を集める背景
近年、会計や人事、生産といった企業の基幹となる業務を一元管理するERP(企業資源計画)や、顧客情報・行動履歴の把握に役立つCRM(顧客関係管理)など、様々なシステムを活用するケースが増えました。しかし、各システム内に登録された顧客マスターデータは、組織やシステム、目的ごとに管理されており、各データが一致しているとは限りません。それぞれのデータが連携されずに独立してしまい、有効活用されていない点が課題となっていました。
このような状態をサイロ化といいます。例えばもっとも売上の大きい顧客を算出する場合、組織内のデータが一致していないと正確な情報が得られません。こうした課題を解決に導く取り組みがMDMであり、近年注目を集めています。
マスターデータの重要性
マスターデータは主に、以下3つの観点から重要視されています。
- データ管理
- データ分析
- ガバナンス
マスターデータは、従業員や顧客の情報、商品やサービスに関連するデータ、勘定科目や銀行口座といった会計に必要な情報など、業務を遂行する上で必要なものです。いつ・誰に・何を・いくらで売ったかなどを示す情報は全てマスターデータで成り立っています。
また、生産性を高めたり、顧客にマッチする商品やサービスを提供したりするためには、詳細な分析が必要です。マスターデータには、顧客の属性やカテゴリ別の売上など、これまでに各部署で培った情報が蓄積されており、具体的な分析をするのに役立ちます。
さらに、ガバナンスの観点から見てもマスターデータは重要な情報です。例えば、従業員や顧客の個人情報はプライバシー規制の対象となります。そのほか、資産情報や財務会計に関する情報も資産管理やリスク管理ポリシーにおいて必要な情報です。
MDM (マスターデータ管理)を取り入れるメリット
MDMを取り入れる主なメリットは、以下の4点です。それぞれのメリットについて詳しく解説します。
生産性向上
MDMを導入することで、マスターデータの完全性や整合性が高まります。データが分散した状況では情報の質が下がり、非効率なオペレーションにつながります。MDMによって情報を一元管理できるようになると、業務の無駄が改善され生産性が上がります。
また、従来は部署やシステムごとにデータを管理していたことから、情報に対する認識の違いが発生していました。全社内で統一された情報があれば、認識のすり合わせに費やしていた時間や手間を大幅に削減できます。
顧客管理の精度向上
顧客情報を分析するにあたって、全部門・全システムで情報が連携されていることは重要です。各部署で業務内容に合ったシステムを導入するケースが増えていますが、情報が個別に管理されていては効果的に活用できません。MDMによりマスターデータが統一されれば、ブレがなく精度の高い顧客管理が可能となります。
これにより、顧客のニーズを的確に把握できるようになり、営業活動やマーケティング活動の効率向上につながる点もMDMのメリットです。個々の顧客にマッチした商品やサービスを提案できれば、顧客満足度向上も期待できます。
サプライチェーンの最適化
MDMの導入により、生産から配送、在庫、返品、欠品などの情報が一元化されると、サプライチェーン全体の状況をリアルタイムで把握できるようになります。
また、一元管理された情報を分析することで需要予測が立てられるほか、全体的な在庫管理も容易になります。発注ミスや在庫不足などが避けられ、顧客満足度向上やサプライチェーンの最適化にも寄与します。
データガバナンス強化
保有する情報を目標達成に向けて効率・効果的、なおかつ安全にビジネス活用できるように統制をとりサポートすることを、データガバナンスといいます。
情報が各所に分散しているとセキュリティリスクが高まりやすく、情報漏洩や不正利用などにつながりかねません。一方で、MDMにより統一されたデータは、社内のルールや方針によって均一的に管理できるため、データ取り扱いに関わるリスクを軽減できます。
MDM導入の進め方
MDMの導入は、導入目的の決定・マスターデータの決定・運用ルールの策定の3つのステップで進めるとスムーズです。順を追って解説します。
1. 導入目的を決める
MDMを進める前に、現状を踏まえて導入の目的を見定める必要があります。例えば、データを調べる手間や時間を削減したい場合は業務効率化を目指します。DXに伴い管理するデータが膨大になったため、情報漏洩や不正使用などの心配がある場合はセキュリティ強化を目指して取り組むことになります。そのほか、データを活用した営業活動の効率化やマスターデータの分析による速やかな経営判断などもMDMを導入する目的の1つです。
このように、MDMの導入目的は企業によって様々であり、目的が曖昧なまま導入を進めても思うような結果は得られません。慌てて取り組むのではなく、まずは具体的に目的を定めるようにしましょう。
2. マスタとするデータを決める
目的を定めたら、社内システムの中からMDMで管理するマスターデータを決めます。
目的にマッチするデータを整理する必要があるため、内容によっては個別のシステムでしか利用されておらず、MDMとして管理すべきマスターデータには該当しないものもあるはずです。個別システムのマスタ管理機能の移植にならないよう、MDM管理対象の定義を策定し、対象マスタを決定する事が重要です。また、目的に合っていたとしても古い情報では正確な分析ができず、混乱を招きます。マスターデータを有効活用するには、不要なデータを除外して最新の情報を集めることも大切です。
加えて、データ管理の粒度やフォーマットを統一しておくと導入がスムーズに進みます。
3. 運用ルールを定める
MDMを効果的に活用するには、正確なデータが求められます。各部署や業務によってデータの登録方法が異なると、登録ミスや表記ゆれ、重複などが発生しやすくトラブルにつながりかねません。
こうした人為的ミスを防ぎ、データの質を保つためにマスターデータを管理する際の運用ルールを決めましょう。誰が・いつ・どのようにデータを更新するのかといった手順を明確にし、全社で統一することが大切です。
また、登録後のデータが古くならないように定期的な見直しも行い、常に最新の状態を保ちましょう。
まとめ
情報の多様化・複雑化が進み、企業でも様々なシステムが導入されるようになった昨今、MDMは安全で効果的に情報を活用する上で重要な取り組みです。
MDMによって管理するマスターデータの蓄積は、継続的かつ組織的な努力を必要とし、一朝一夕には成り立ちません。各部署や業務において時間をかけて構築した貴重な財産であるマスターデータを正しく管理するためにも、MDMの導入目的をしっかりと見据えて、運用ルールに則った運用をすることが大切です。
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