製造企業では、製品の設計の複雑化や、解析の高精度化に伴い流体解析のニーズが高まってきています。しかし、流体解析の目的やできることについて適切に理解できている担当者が少ないのが現状です。そこで本記事では、流体解析の意義や概要、またCFDシミュレーションについて詳しく解説していきます。
流体解析とは
流体解析とは、空気の流れや熱の移動といった流体力学を応用した解析手法を指します。製造業を始めとする多くの業界において、流体力学は不可欠な学問です。機械工学には主に4力学と呼ばれる研究分野が存在します。それが「機械力学」「熱力学」「材料力学」「流体力学」の4つです。流体力学は流体が運動する性質や状態を研究する学問として、さまざまな産業で幅広く活用されています。
たとえば、人々の暮らしに欠かせない水道やガスなどの流体輸送、火力発電や水力発電といった流体エネルギーの変換も流体力学の応用です。また、空調使用時の部屋の気流解析や機械の冷却機構の気流解析、天気予報における風向きや気圧の解析なども流体力学によって解析されます。
流体力学の技術・工学知識とコンピュータを用いて物事を分析し、論理的に明らかにするのが「CFD」です。CFDとは「Computational Fluid Dynamics」の頭文字をとった略称で、「数値流体力学」と訳されます。一般的に、この数値流体力学を「流体解析」と呼びます。コンピュータシステムを用いて流体解析を行うことで、試作品を作ることなくさまざまな状況をシミュレーションできるのがCFDの大きな特徴です。
流体解析は工業製品に限らず、およそ世の中のすべてのものを設計・製造するために利用されています。たとえば、自動車や航空機などの空気抵抗の計算に利用されるのが流体解析です。車体回りの空気抵抗は燃費に大きな影響を及ぼします。燃費性能が向上すると、二酸化炭素の排出量も抑えられるため、環境への負荷も小さくなるでしょう。また、パイプ中を流れる水やガスなどを計算する際にも流体解析が用いられます。このように、物体の外部の流れや内部の流れを解析するために、あらゆるシーンで応用されているのが流体解析です。
CFDシミュレーションとは
CFDシミュレーションとは、流体力学の方程式とコンピュータシステムを駆使し、さまざまな物体の流れの性質や物質輸送、物理的な問題を数学的にモデリングすることを指します。流体動作の温度、応力、速度、密度を色で表現することができ、製品の設計と解析に利用されます。流体の運動を論理と物理によって解析する流体解析は、優れた製品を設計する際に有効な手法といえるでしょう。
流体解析で得られる情報は実現象そのものであるため、信頼性の高いデータを取得できます。試作品を制作して実験しようとすれば、膨大な時間とコストが必要です。しかし、流体力学とコンピュータを組み合わせたCFDを用いれば、プログラム上で何度もシミュレーションを行うことができ、正確なデータを得られます。CASE時代に向け、開発のスピードが求められている今、試作品の制作の時間とコストが不要になるだけでなく、実験の時間とコストも大幅に削減できることは大きなメリットです。
また、実験による測定が難しい複雑な流体運動でも、CFDシミュレーションであれば、データの取得が可能です。実験では、何度も試作の設計変更を繰り返して、その度にデータを取得するのが一般的です。そのため、コンピュータ上でより容易に繰り返し実験と検証を行える点が、CFDシミュレーションにおける最大のメリットでしょう。
CFDシミュレーションは多くのメリットを享受できる一方で、注意しなければならない点もあります。たとえば、複雑な流体運動を計算する際、単純化・簡略化した物理モデルを使用するケースがあります。複雑な流体運動を単純化して計算するとどうしても誤差が生じます。シミュレーション上はわずかな誤差であっても、精密性を求められる製品であれば致命的な問題となる可能性もあります。
正確度と精密度を求められるプログラムが必要であれば、シミュレーションによる誤差も考慮した演算処理が可能なソフトウェアを選ばなければなりません。CFDは膨大なデータの演算処理やグラフィック処理を行うため、ハードウェアとソフトウェアの両方に高いスペックが求められるのです。
CFDシミュレーションの手順
コンピュータ上で流体解析を利用してあらゆる状況を計算するCFDシミュレーションは、現代のものづくりにおいて必要不可欠な手法です。そんなCFDシミュレーションは「前処理」「ソルバー処理」「後処理」という3つの手順に沿って実行されます。この3つはCFDシミュレーションのみならず、あらゆる分野のデータ分析に用いられる手法です。前処理とソルバー処理、そして後処理の3つについて解説します。
前処理
CFDシミュレーションにおいて最も重要なものは「データ」です。データはただ収集するだけでは意味をもたず、活用してこそ真価を発揮します。そこで重要なのが、データの「前処理」です。前処理とは、分析に用いるデータを整えて加工すること全般を指します。データ分析は前処理の時間が8割を占めるとも言われ、データ分析の基本中の基本であると同時に最も重要な作業です。
データの前処理とは、いわば必要な情報の取捨選択です。収集しただけのデータにはエラーやノイズが含まれているため、分析可能な状態に整える必要があり、この工程をデータクレンジングと呼びます。次にクレンジングしたデータを統合し、最後に分析モデルに応じたフォーマットにデータを変換します。この一連のプロセスを自動化するのがCFDシミュレーションです。効率的にデータの前処理を実行し、流体の条件や属性、物理法則などを数値モデルと数式へと変換します。
ソルバー処理
「ソルバー」とは、集められたデータを基に計算を実行するソフトウェアの中核といえる部分です。つまり、前処理によって最適化されたデータを、CFDシミュレーションのソルバーを使用して数式の解を導くのが「ソルバー処理」です。ソルバー処理では、流動運動の膨大かつ複雑なデータを演算処理するため、多くの時間と演算リソースが必要です。そのため、自社サーバーでシステムを構築するオンプレミス型ではなく、クラウド型のシステムを選択する企業が多い傾向にあります。
後処理
ソルバー処理の実行後に最後の段階である「後処理」へと進みます。後処理とは、ソルバーによって演算処理されたデータを可視化するフェーズです。つまり、流体解析によるシミュレーション結果を表示する段階といえるでしょう。具体的には2Dや3D画像、アニメーションなどでシミュレーション結果を視覚化し、定性的および定量的に解析します。また、設計情報を一元化して調整するためのプロット図を作成するのもこの段階です。前処理とソルバー処理の過程がこの段階の結果を大きく左右します。
CFDシミュレーションの適用可能領域
CFDシミュレーションは、非定常に変化する流体運動を具体的な数値とグラフィックで可視化し、さまざまな条件を考慮して実験プロセスを実行します。流体や熱現象を理解して予測するという特性から、最も多く利用されているのが製品やシステムの設計を行うエンジニアリング領域です。
たとえば、自動車メーカーは空気抵抗を低減するために、長年試行錯誤を重ねてきました。従来はクレイモデルと呼ばれる粘土の車体模型を用いた風洞試験によって、車体周りの空気の流れを可視化していました。しかし、こうした手法による空気抵抗低減にはすでに限界が来ており、今以上の向上は見込めない状況です。この状況を打破する手段として注目されているのがCFDシミュレーションです。従来の手法では不可能だったミクロな流体運動を予測し、的確に制御することで、さらなる空気抵抗の低減が期待できます。
模型制作による風洞試験は、航空機の設計においても標準的な手法です。航空機の離着陸における流体運動は定常的でなく、ランダムに発生するため、数値モデル化が難しいという特徴があります。しかし、航空設計は高い正確度と精密度が求められる領域です。そこで、風洞試験とCFDシミュレーションを融合させ、統合的システムによる設計を行うことで技術レベルの向上を目指しています。古い技術を切り捨てるのではなく、デジタルソリューションと融合させることで、さらなる飛躍を実現した事例といえるでしょう。
その他にも、航空宇宙や造船・洋上プラントといった製造分野はもちろん、エネルギーやエレクトロニクス、コンシューマー製品やライフサイエンス、さらにはスポーツ分野と、幅広い領域でCFDシミュレーションの導入が進んでいます。
まとめ
製造業をはじめとする、ものづくり分野においてCFDシミュレーションは必要不可欠なシステムです。流体運動のミクロ現象を予測・制御して解明することで、従来は達成し得なかった高い性能の実現が期待されます。とくに製品やシステムの設計に与える影響を見極める、エンジニアリング領域では必須のシステムといえるでしょう。ぜひ、本記事を参考にして自社の事業戦略構築に活用してください。
- カテゴリ:
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