製造業のDX化を進めるべき理由とは? 成功事例を用いて解説

 2022.08.15  2023.10.09

「インダストリー4.0」や「スマートファクトリー」に代表されるように、製造業においてICTの活用は非常に有望視されています。本記事では、製造業がDXに取り組むべき理由をご説明するとともに、製造業DXのトレンドや成功事例などを解説していきます。本記事を参考に、ぜひ製造業DXに取り組んでください。

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DXとは?

そもそもDXとは何を意味するのでしょうか。以下では、DXとは一般的に何を意味しているのか、そして製造業におけるDXがどのようなことを想定しているのかについて解説していきます。

DXの意味とは

DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称で、日本語にすると「デジタル技術による変革」を意味します。DXはもともと、2004年にスウェーデンの学者エリック・ストルターマン氏が論文で用いた言葉で、その時点では「進化するデジタル技術が私たちの生活をより豊かに変えていく」といった広い意味合いで使われていました。

しかし、その後DXという言葉はビジネス領域で頻繁に使われるようになり、「デジタル技術による変革の具体的な対象となるのはビジネスモデルである/顧客提供価値である」というように、現在ではさまざまな解釈が飛び交っています。とはいえ、基本的な傾向としては、デジタル技術によって何らかの課題に対応したり、既存のあり方をよりよい方向に変えたりしていくことがDXである、という点はおおむね共通しています。

製造業におけるDXとは

では、製造業におけるDXとは何を意味するのでしょうか。先に挙げた広義の意味に照らせば、製造業におけるDXとは、「デジタル技術によって、製造業における何らかの課題に対応したり、既存のあり方をよい方向に変えたりすること」です。

ここで想定される具体的な課題としては、たとえば「生産性の向上」「コストカット」「人材不足の解消」など、多くの製造業者・モノづくり現場に共通する課題が主に考えられます。もちろん、これらに加えて「業務の属人化の解消」「品質の確保」などを考えるのも自由です。デジタル技術によって何を変革すべきかについては、自社の現状や課題に照らし合わせながら、各々の企業が考えなければなりません。

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製造業でDXが注目されている理由

ドイツが国家戦略「インダストリー4.0(第四次産業革命)」として製造業のデジタル化を掲げたことにも示されるように、製造業においてDXの効果は非常に大きいものと期待されています。そこで続いては、製造業においてなぜこれほどDXが注目されているのか、その理由を解説していきます。

参照:平成30年版 情報通信白書のポイント インダストリー4.0とは

生産効率の向上

製造業DXが注目されている第一の理由は、生産性および業務効率の向上が見込めるからです。ICTの活用によって業務の効率化や自動化が進むことで、生産効率を維持または向上したうえで、製造現場に必要な人員を減らすことが可能です。

この効果は、すでに人手不足に悩まされている企業はもちろん、社会全体が慢性的な人手不足時代に陥ることであろう今後の超高齢化社会に備えたい企業としても、有望な戦略となります。また、業務負担の軽減により、従業員エンゲージメントの向上および離職率の低下も見込めるでしょう。

コストの削減

コスト削減効果も、製造業にDXが求められている大きな理由のひとつです。先に挙げた業務効率化によって、まずは人員減少による人件費をコストカットできます。また、データに基づいて製品の生産量や在庫などの管理調整を行うことで、過剰在庫や欠品などの不要なコストやリスクも削減可能です。

さらにIoTネットワークなどを用いれば、生産設備の状態を自動監視して異常の兆候などを早期発見できることから、深刻な故障を回避し、高額な修繕費や、大がかりな修理に伴うダウンタイムの発生による損失なども抑止できます。現場作業中の事故は重大な人身事故につながるリスクもあるため、これは非常に大きなメリットです。

労働力の向上

労働力の向上も、DXに期待される効果です。人手が足りない場合、たとえ簡単な仕事でも熟練の作業員が担当しなければならないことがあります。しかし、こうした事態は、せっかくの貴重な人的リソースを無駄遣いすることにほかなりません。その点、機械やシステムにできる仕事はそれらに任せてしまうことで、余分な人員をより重要な別の業務に回せるようになります。

たとえば、部品の検品作業をAIに代替させるなども選択肢のひとつです。高度な機械学習と画像認識技術を搭載したAIは、人間以上の識別精度を誇ることで知られています。つまり、機械は機械、人間は人間の得意分野で働くことで、最大の労働成果を挙げることが可能となるのです。

新たな価値の創出

上記で挙げてきた諸々の効果は、新たな価値の創出へと結びつきます。自動化によって余った人員や、コスト削減によって浮いたリソースなどを使えば、新たな製品開発も可能となるでしょう。もちろん、既存商品の品質向上などにそのリソースを割くことも効果的です。

いずれにせよ、DXによって生まれたさまざまな効果は、企業に新しいチャレンジへ取り組む余力を与えます。そして、こうしたチャレンジは企業に新しいビジネス展開を呼び込むきっかけになり得ます。あるいは、そのように生産性の高い企業、創造性のある企業に成長していくことが、組織としての魅力を向上させ、新しい人材を引きつけることにつながるかもしれません。

製造業DXにおけるトレンド

昨今の製造業DXにおいては、「サービス化」「プラットフォーム化」「スマートファクトリー」の3つがトレンドになっています。続いては、製造業DXにおけるこれらトレンドの概要について解説していきます。

サービス化

製造業DXにおける第一のトレンドは、製造業のサービス化です。製造業のサービス化とは要するに、単に「モノ」として製品を売るだけでなく、その製品の使用場面に付帯する顧客体験全体を成功に導く、「ソリューション」までをも製造業者が提供するということです。実際、顧客が製品の価値を評価する際には、その製品単体の性能だけでなく、その製品を使って特定のニーズを満たせたかどうかが強く反映されてしまいます。その意味では、製品が使用される付帯状況を丸ごとひとつのサービス対象とみなすのは、非常に合理的です。

2020年、第3回日本サービス大賞の内閣総理大臣賞を受賞したのは、まさにこの「製造業のサービス化」に取り組む小松製作所でした。建設機械の製造・販売などを営む同社は、土木建設作業全体の作業工程をデジタル技術で支援するソリューション「スマートコンストラクション」によって、この賞を受賞したのです。

参照:土木建設サービス全体のデジタル業態革新「スマートコンストラクション」

プラットフォーム化

製造業DXにおける第二のトレンドは、プラットフォーム化です。プラットフォームとは、ITシステムにおいてさまざまなアプリケーションやシステムなどが動くための共通の基盤を意味します。つまり、製造業DXにおけるプラットフォーム化とは、製造業におけるさまざまな仕事を効率的にこなすための基盤を、ITシステムによって構築することを意味します。

たとえば、製造業の受発注プラットフォームに「CADDi」というものがあります。これは発注者が3D CADデータをアップロードするだけで、金属加工の特注部品の加工会社を自動で選定してくれるというシステムです。こうしたプラットフォームがあることで、手間や時間を削減して仕事を効率化することが可能になります。同業者だからこその視点を活用すれば、多くの企業に利用されるプラットフォーマーになれる可能性もあるでしょう。

スマートファクトリー

製造業DXにおける第三のトレンドが、スマートファクトリーです。これは、ネットワークに接続された機械・デバイス・生産システムを通じて継続的にデータ収集する、高度にデジタル化された製造現場のことです。ここで収集されたデータは、システムによって周到に管理・活用されることで、モノづくり現場の生産性向上やオペレーションの最適化に役立てられます。

スマートファクトリーは、AI・ビッグデータ・クラウドコンピューティング・産業用IoT(モノのインターネット)などのさまざまな技術により実現されます。すでに触れたドイツの国策プロジェクト「インダストリー4.0」も、スマートファクトリーの実現がその骨格であると考えられます。

製造業におけるDXの課題

精力的にDXを進めている企業も存在する一方、DXに着手したものの思うように進まない企業や、失敗に終わってしまった企業も当然存在することでしょう。そこで続いては、製造業におけるDXの課題を解説していきます。

デジタル人材の不足

第一に課題となるのが、デジタル人材の不足です。経済産業省が2020年に作成した資料「製造業を巡る動向と今後の課題」によれば、日本の製造業がDXを遂行するには、IT人材の量が特に問題になってくると指摘されています。

とはいえ、これは製造業界固有の問題というより日本全体の問題であり、全業種で見てもIT人材の不足は質・量ともに深刻です。したがって、自社のDXに必要な人材を継続的に賄っていくには、外部からIT人材を積極的に引き入れるとともに、自社内部でもIT人材を育成する施策を積極的に取り入れることが推奨されます。
参照元:経済産業省製造産業局「製造業を巡る動向と今後の課題」

IT化の遅れ

これも製造業というより、多くの日本企業に共通する問題ですが、IT化の遅れもDXに取り組む際のネックになっています。日本企業はデジタル化への投資を一種のコストとして見ている傾向があり、米国などのIT先進国に比べてデジタル化への投資に消極的です。

その結果、日本企業は旧来のシステムの保守管理にコストをかけるばかりで、変革に必要な大胆な投資をためらうケースが少なくありません。しかし、こうした消極的な姿勢は、長期的に見た場合、デジタル競争の敗者へと企業を導くことが懸念されます。こうした現状を打破するには、企業のトップである経営者自身がDXへの高度な認識とモチベーションを持ち、具体的に戦略を示すことが重要です。

属人化

製造業のDXを阻害する第三の要因は、業務の属人化です。日本の職人の熟練技は素晴らしいものですが、それが製造業において現場主義を助長してしまった側面もあり、技術が属人化している現場も少なくありません。

製造業DXにおいては、機械に人間の仕事を代替させたり、業務プロセスを標準化したりする施策も重要になってきますが、こうした現場主義や属人化が蔓延している現場にそれを受け入れさせるのは、非常に骨が折れることでしょう。このような環境においては、まず現場の人間に技術継承やDXの必要性を認めてもらうところから始めていかなければなりません。

製造業DX化の導入ステップ

上記のような課題を乗り越えて、実際に製造業DXに取り組む際は、どのように手順を進めればよいのでしょうか。以下では、製造業DXの導入ステップを解説します。

ビジョンを提示

製造業DXの最初のステップは、経営陣による目指すべきビジョンの提示です。ここまで解説してきたことからもわかるように、DXはときにビジネスモデルの刷新すら伴う大きな影響力があるため、経営陣の協力なくしては実行できません。

また、現場意識の強い製造業でDXを進めるには、経営者の鶴の一声が必要となる場合もあるかもしれません。したがって、まずはなぜ自社にDXが必要なのか、DXによって自社の事業や業務をどのように変えていきたいかなど、経営者が目指すべきビジョンを提示し、社内全体でそのイメージを共有することが大事です。

DX化の体制整備

次のステップは、DXを実行するための体制整備です。データ活用やデジタル技術に知見を持つ人材を確保しましょう。社内に十分な人材がいない場合は、社外の人材を獲得したり、協力を仰いだりすることも必要になるでしょう。

とはいえ、人数が多すぎると意思疎通に問題を抱えてしまい、かえって逆効果になることもあるので、全体の計画から考えて余分な人員を取りすぎないようにすることも大切です。一定の人数が集まったらDX部門を設置するなどして、必要な体制を整えていきます。

状況の分析

DX部門が発足したら、次はDXに必要なデータの収集・整理・分析です。先述したように、多くの日本企業はITへの投資が消極的であるため、DXの基盤となるシステムが老朽化(レガシーシステム化)してしまっている場合もあります。こうしたレガシーシステムを無理に使い続けることは、維持コストの高騰を招き、DXに必要な最新技術活用の妨げとなります。

したがって、まずはそうしたシステム的な不備から点検・分析を始め、次に現在あるデータ状況や、部門間のデータ連携および一元管理の可能性を確認し、生産設備からデータを取得できるかなどを調べていきます。また、こうしたシステム面での分析に加え、現場にデジタル技術で解決できる大きな課題がないかの調査も重要です。

業務効率化

続いては、先の状況分析の結果や、必要に応じて導入した新システムなどを活用して、部門ごと、あるいは個々の業務ごとに業務効率化を実行していきます。DXは大規模なプロジェクトですが、いきなりすべてを変えるのはおすすめできません。

まずは影響力の小さなところから始め、成功体験とモチベーションを積み上げつつ、徐々に施策を進めていくことが重要です。なお、こうした個々の業務効率化に対して、しっかり効果検証と改善のPDCAサイクルを回すことで、大規模なDX実行時の練習になります。

製品、サービスの変革

最後に、デジタル化によって生まれたデータや技術を活用して、製品・サービスの本格的な変革、あるいは新しい製品・サービスの創出を行います。ここで想定されるDXの実際の内容は、各社の実情に応じてさまざまです。ただし、いずれにしても最初から何もかもうまくいくと期待しすぎてはいけません。PDCAサイクルを回していく中で、施策の妥当性や価値を向上させていく継続性こそが、DXを成功させるうえで重要です。

製造業DX化の事例

最後に、製造業DXを進める際の参考のために、既存のDXの実施事例をご紹介します。

工場IoTプラットフォームの整備

空調機器メーカーとして有名なA社は、DXの一環として工場IoTプラットフォームの整備を実施しました。同社では、市場環境の変化スピードへ対応するため、マス・カスタマイゼーションを原則に、生産体制の革新をする必要を感じていました。そこで同社は新たな工場を用意し、「(1)製造現場データの発掘」「(2)データの収集と統合」「(3)データの見えるかと分析」「(4)顧客への価値提供」の実現に取り組むことにしたのです。

出典:経済産業省ウェブサイト

このうち、(2)を実現するために同社が構築したのが工場IoTプラットフォームです。工場IoTプラットフォームとは、工場内のすべての設備をネットワークでつなげ、効率的に情報収集を行うための情報基盤です。工場IoTプラットフォームの整備によって、同社は生産状態の可視化を行い、生産計画の最適化に役立てることでロスを改善しました。同時に、そこで収集された人やモノの情報のモデル化・デジタル化を進めることで、高度な予知・予測までをも可能にしたのです。現在、この工場IoTプラットフォームは同社の海外拠点とも連携しており、さらなる活用が進められています。

故障診断フローの構築

建機・農機の製造会社であるB社は、効率的な故障診断フローをDXによって構築しました。世界中に製品を提供する同社ですが、製品の故障対応については、現地の販売代理店のサービスエンジニアによって行われています。その際、マニュアルだけでは担当者が対応しきれない場合も多く、それによるダウンタイムの発生がユーザーのニーズを阻害していることを同社は懸念していました。

そこで同社は、使い手のスキルに左右されず、素早く効率的に使える新たな故障診断フローをアプリケーションとして開発したのです。従来の故障対応においては、膨大なマニュアルの中から必要な情報を見つける必要があり、労力的にも時間的にも非常に非効率でした。しかし、この新しいソリューションでは、故障した機械が表示するエラーコードや症状を入力するだけで、自動でアプリケーションが点検箇所や修理方法を表示してくれるのです。

また、このアプリケーションには3DモデルとAR技術を組み合わせた機能があり、スマホをかざすことで故障箇所や故障部品の特定をビジュアルで行えます。これにより同社は、担当者のスキルに左右されずにダウンタイムの短縮を果たすという、当初の目的を達成しました。

配車システムの導入

続いてご紹介するのは、プラットフォーム化に関するDX事例です。配車アプリを提供するC社の歴史を調べると、とあるタクシー会社の情報システム部門まで遡ります。このアプリは、タクシーの利用に伴う一連の顧客体験を快適にするため開発されました。このアプリを使えば、顧客は道端を歩き回って探すことなく、周辺のタクシーをすぐに呼ぶことが可能です。

また、タクシーが来るまでの所要時間や乗車前料金を確認できるほか、ウォレット機能で到着前に支払いを完了できる機能まで搭載されています。同社は、リリース当時は一部のタクシー会社にしか対応していませんでしたが、今ではタクシー会社共通のプラットフォームアプリとして広く活用されるようになっています。DXはしばしばビジネスモデルの変革を伴いますが、タクシー会社からアプリ配信会社として独立するまでに至った同社は、まさにその顕著な例と捉えられます。

まとめ

本記事では、製造業におけるDXについて解説しました。製造業においてDXが注目されているのは、業務効率や生産性の向上、コスト削減、労働力の強化、新たな価値創出などの効果が見込めるからです。製造業DXの現在のトレンドとしては、「サービス化」「プラットフォーム化」「スマートファクトリー」の3つが挙げられますが、こうしたDXへの取り組みは既存のビジネスモデルに縛られない、新たなビジネス展開をもたらす可能性があります。

現場の影響力が強い傾向にある製造業においてDXを進めるには、経営者が明確なビジョンやリーダーシップを示して、強力に変革を推進していくことが大切です。本記事でご紹介した成功事例などを参考に、ぜひ製造業DXを推進してください。

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