2023年4月1日から施行される労働基準法の改正によって、時間外労働の割増賃金や賃金の支払い方法、育児休業の公表などに関する、多くの新しいルールが導入されました。本記事では、企業の経営者や人事担当者に向けて、労働基準法改正の具体的な内容と予想される企業への影響、改正後の法令に対応するためのポイントを紹介します。
労働基準法とは
労働基準法は日本の労働条件に関する法律であり、労働時間や賃金、休日、安全衛生など、労働者の基本的な条件を規定しています。1947年の制定以降、労働環境や社会状況の変化に対応するため、細かな改正が行われています。この法律は、労働者の権利保護や労働環境の改善において中心的な役割を果たしており、その重要性は今日に至るまで高まり続けている状況です。
企業が労働基準法に違反すると、損害賠償請求や罰則が科される可能性があります。過度な残業や不適切な解雇は、企業にとって重大な法的リスクとなるので、法律の遵守と共に、適正な労働環境の維持が求められます。
2023年労働基準法の改正で何が変わった?
労働基準法は、労働者の権利と働き方を守る基本的な法律です。しかし、時代と共に労働環境は変わるため、その都度、法律の内容も更新しなければなりません。2023年には、労働基準法にいくつかの重要な改正が加えられました。これらの改正は、時間外労働の賃金やデジタルマネーでの賃金支払い、育児休業の公表義務など、多方面から企業と労働者に影響を及ぼします。以下、2023年の労働基準法改正において、具体的に変わった点とその詳細を解説します。
時間外労働の割増賃金率が50%に増加
2023年4月1日から、中小企業も大企業と同様に、時間外労働の割増賃金率が50%に引き上げられることが決定しました。これは、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が、25%から50%へと変わるものです。労働者はさらに適切な報酬を受けられる上、企業も労働者の健康の確保を目的とした手段を得られます。この改正に伴い、就業規則の見直しが求められるかもしれません。企業にとっては、労務コストの増加を意味しますが、国が提供する働き方改革推進支援助成金を活用することで、就業規則の改正費用や勤怠管理システムの導入費用に対する助成を受けられます。労働者の適切な待遇を確保しつつ、経営の安定を図るための戦略的な人事計画の見直しが必要です。
デジタルマネーでの賃金の支払いが可能に
2023年4月1日から、日本でもデジタルマネーでの賃金の支払いが解禁されました。従来、賃金の支払いは、主に現金や銀行振り込みが一般的でしたが、厚生労働省の指定を受けたスマホ決済アプリや電子マネーを介せば、デジタルマネーも可能です。この新しい制度は、企業と労働者が事前の協定を締結することが前提です。労働者がデジタルマネーでの支払いを希望する場合、賃金の全額、または一部を電子マネーで受け取れます。この制度の導入は数カ月先になる見込みであり、具体的な運用はこれから明らかになるでしょう。
企業としては、新しい支払い方法の導入に伴う、セキュリティリスクやシステム導入のコストなどの懸念点が発生する一方、労働者の満足度向上や採用力の強化などが、メリットとして期待できる点です。
育児休業取得状況の公表義務範囲が拡大
日本の労働環境は、2023年4月1日に施行された改正育児・介護休業法から、新たな変化を迎えています。施行後の従業員数が1,000人を超える企業は、育児休業の取得状況を公表する義務が課されます。従来は、厚生労働大臣による「プラチナくるみん認定」を受けた企業のみに限られていたものが、全ての大企業に拡大される形になります。この措置の目的は、育児と仕事の両立を促進し、多様な働き方を実現することです。公表義務化によって、企業内の育児休業の取得状況が明らかになり、その結果として、企業文化や働き方のさらなる進化が期待されます。育児休業の取得が容易になれば、仕事と家庭を両立させやすくなり、企業も多様な人材を確保できるようになると考えられます。
企業のブランディングや採用において、公表義務の遵守は非常に重要です。企業の育児支援策を強化し、良好な企業イメージを維持する取り組みを検討しましょう。
2024年に予定されている労働基準法改正とは?
2024年4月に、次の労働基準法の重要な改正が予定されています。特に運送・物流業、建設業などでは、これまで時間外労働の上限規制に猶予が設けられていましたが、この猶予が解消され、新たな上限規制が適用されます。この改正は、労働者の健康と安全を守るため、そして企業が持続可能な成長を達成するために欠かせません。また、2024年問題の一つとして、人手不足が深刻化しています。今後加速していく高齢化や多様な働き方のニーズに対応するには、企業のDXがますます重要な課題となるでしょう。効率的な業務遂行やコスト削減を目的として、AIやロボティクス、クラウドサービスなどの先進技術の活用が必要です。
2024年の改正に向けて企業が対応すること
労働基準法の新たな改正によって、企業文化や働き方が大きく変わる可能性があります。具体的には、どのような対応が求められるのでしょうか。明示すべき労働条件事項の追加
2024年4月からは、次のとおり4つの労働条件事項を労働者に明示しなければならなくなります。まず、就業場所や従事すべき業務の「変更の範囲」についてです。これまでは、全ての労働契約の締結タイミングと有期労働契約の更新タイミングで、雇用直後の就業場所や業務内容を明示することが義務付けられていました。
この「変更する範囲」も同じタイミングで明示しなければならないルールに変わります。
2つめは、有期契約社員を対象としたルール変更です。まず「更新上限の有無と内容」を、契約締結と更新のタイミングで明らかにしなければなりません。最初の契約締結後に、新たに更新上限を設けたり、元の更新上限を短縮したりする場合は、あらかじめその理由も添えて労働者へ説明が必要です。
次に、「無期転換申込権」が発生する更新タイミングで、有期から無期雇用へ転換を申し出られる旨の明示も必須となります。
同じく「無期転換申込権」が発生する更新タイミングで、無期転換後の労働条件も明示しなければならないといったルールに変わるため、十分に注意しましょう。
労働時間の可視化と適正な管理
2024年4月からの労働基準法改正では、時間外労働の上限規制も適用されます。そもそも労働基準法では法定労働時間として「1日8時間・1週間40時間」の上限が定められています。これを超えると「時間外労働」となるものの、労使間で36協定が結ばれてさえすれば、雇用主は制限なく労働させることが可能でした。これをうまく利用することで、とくに中小企業では長時間労働が常態化しがちであったとも考えられます。
今回の改正を受けて2024年4月からは、たとえ36協定が結ばれていても原則「月45時間・年間360時間」を守らなければなりません。また臨時でどうしてもやむを得ない事情がある場合、労使間で合意があったとしても、次の上限までです。
- 年720時間(月平均60時間)
- 年720時間の範囲内で、
・2〜6ヵ月の平均でいずれも80時間以内(休日出勤を含む)
・単月100時間未満(休日出勤を含む)
・原則(月45時間)を上回る月は年6回を上限
(引用元:https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/overtime.html)
上記条件1、2はどちらも満たす必要があります。
中小企業の中でも、とくに運送・物流業や建設業は、納期や工期の関係で長時間労働が発生しやすい業種です。そこで法改正後もスムーズに対応できるよう、準備しておく必要があります。
まず重要なポイントは、各労働者における労働時間の把握です。いつ、何時間働いたのかを紙ベースで記入し確認する方法では、ヒューマンエラーが起きやすくなります。
対策として、「勤怠管理システム」といった労働時間を可視化できるツールを取り入れる方法がおすすめです。一目で誰がいつ、何時間労働したかをチェックできるほか、上限に近づくとアラームで知らせるなどの予防措置も可能です。
これまでの働き方や業務のやり方にとらわれていると、労働基準法違反となり、最悪罰則の対象となりかねません。この機にDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、業務効率や生産性を上げるようにしましょう。
まとめ
労働基準法の改正は、企業と労働者にとって、大きな影響を与えるものです。これに伴い、企業は労働環境の見直しや就業規則の改定、さらには勤怠管理システムの導入などの対応が必要です。
2024年には、中小企業に代替休暇の付与や給与計算方法の見直しが求められます。これらの改正に対応するにはDXが欠かせません。デジタルツールを導入すれば、労働時間の可視化をはじめとした、法改正への迅速な対応が可能です。勤怠管理システムは、労働時間の正確な把握や残業上限の管理、有休取得の推進などに役立つだけではなく、システムが法改正に合わせて自動でアップデートされるため、法的なリスクを最小限に抑えられます。
このように、DXは労働基準法の改正に対応する上での重要な要素です。デジタルツールを積極的に導入することで、現行の法律だけではなく、将来の法改正の施行時にもスムーズに対応できると考えられます。
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