「VDI(Virtual Desktop Infrastructure:仮想デスクトップ基盤)」とは、パソコンに搭載されているオペレーティングシステム(OS)、アプリケーション、データなどをサーバー上で集約管理する仕組みです。VDIといえば社内サーバーに仮想化ソフトウェアをインストールして仮想マシンを構築し、その上にデスクトップ環境を築くオンプレミス型が主流でした。
その一方で、VMwareやCitrixといった主要な仮想化ソフトウェアベンダーが自社ソフトウェアをMicrosoft Azure上で動作できるようにしたことからクラウドへのニーズが徐々に高まり、今ではVDIを構築する上で有効な選択肢になっています。
そして、Microsoftは2019年9月にMicrosoft Azure上で動作するVDI、「WVD(Windows Virtual Desktop)」の提供を開始しました(2021年6月に「Azure Virtual Desktop(AVD)」へ名称変更)。多くの企業ではデスクトップ環境にWindowsを採用しており、そのWindowsから初のVDIが登場したとして注目を浴びています。
本稿ではMicrosoftのAVDについて理解していただくために、その概要と、VMwareの「Horizon Cloud on Microsoft Azure」との違いを解説します。
AVD(Azure Virtual Desktop)とは?
Microsoftが新しく提供を開始しAVDはDaaSの一種です。DaaSとは「Desktop as a Service(サービスとしてのデスクトップ)」の略であり、VDI環境をクラウド上で提供するサービスの総称です。
前述のように、VDI環境はオンプレミスで構築されるのが一般的でしたが、主要な仮想化ソフトウェアベンダーが自社ソフトウェアをMicrosoft Azure上に置くようになり、社内インフラを必要としないVDI環境が主流になりつつあります。その中で特に注目されているのがDaaSです。
DaaSはVDI環境をパブリッククラウド上に移行するものと異なり、「仮想化されたデスクトップそのものをサービスとして提供」します。つまり、一般的なクラウドサービスのようにインターネットにアクセスすることで、デスクトップ環境が利用できるというわけです。
AVDはマイクロソフトがMicrosoft Azure上で管理しているDaaSであり、Microsoftユーザー及び特定のエディションのWindows 10を利用しているユーザーは追加のライセンスコストゼロで利用できます。
<AVDを追加コストゼロで利用できるユーザー>
- Microsoft 365 E3/E5
- Microsoft 365 A3/A5/Student Use Benefits
- Microsoft 365 F1
- Microsoft 365 Business
- Windows 10 Enterprise E3/E5
- Windows 10 Education A3/A5
- ユーザーあたり Windows 10 VDA
のいずれかのサブスクリプション・ライセンスを保有しているユーザー
すでに条件を満たしている企業では、該当するサブスクリプション・ライセンスを保有するユーザーに対してAVDにより、VDI環境を提供できます。ただし、AVDのライセンスコストはかかりませんが、Microsoft Azureの利用料金は別途かかるためその点に注意しましょう。
とはいってもVDIのライセンスコストがかからないため、従来の仮想化ソフトウェアに比べると安価にVDI環境を構築できることは確かです。マイクロソフトの公式ホームページでは、予約インスタンスなどを駆使することで従来のVDI環境よりも最大72%のコスト削減が見込めると公表しています。
参照:Microsoft Azure『Azure Virtual Desktop の価格』
Azure Virtual Desktopの基本情報についてはこちらのブログにも詳しく載せていますので、よろしければご参照ください。
Azure Virtual Desktopとは?基本情報やメリットを解説
Horizon Cloud on Microsoft Azureとはどんな仮想化ソフトウェアか?
主要な仮想化ソフトウェアベンダーであるVMwareが提供する、仮想化ソフトウェアのHorizonをMicrosoft Azure上で利用できるホスティングサービスがHorizon Cloud on Azureです。通常はオンプレミスで構築されるVMwareのVDI環境をパブリッククラウド上で構築でき、要件に合わせて柔軟な環境を利用できるのが特徴です。以下に、VMwareが提供する仮想化ソフトウェアの特徴を整理します。
Horizon Cloud on Microsoft Azure
Microsoft Azureインフラストラクチャから、クラウドホスト型のデスクトップ及びアプリケーションが提供できる。
Horizon 7
データセンターからオンプレミスの仮想化及びホスト型のデスクトップやアプリケーションが提供できる。
Horizon Cloud Hosted
VMwareが管理しているパブリッククラウドインフラストラクチャーから、クラウドホスト型の仮想化及びホスト型のデスクトップやアプリケーションが提供できる。
AVDとHorizon Cloud on Microsoft Azureの違い
それでは、マイクロソフトが提供するAVDとVMwareが提供するHorizon Cloud on Microsoft Azureでは、どういった違いがあるのでしょうか?
<ライセンス形態>
AVDとHorizon Cloud on Microsoft Azure の最も大きな違いは提供するライセンス形態にあります。AVDではMicrosoft 365のサブスクリプション、もしくは特定のWindows 10ライセンスを保有していることで、追加のライセンスコストゼロで利用できます(Microsoft Azureの利用料金はかかります)。
一方、Horizon Cloud on Microsoft AzureではVMwareのソフトウェアライセンスに加えて、Microsoft Azureの利用料金が必要になるため、単純に考えてAVDよりも多くのコストがかかります。ただし、Horizon Cloud on Azureでは同時接続ユーザー数のライセンス購入が可能なので、既存環境を十分に理解した上で検討することが大切です。
<Windows 7サポート>
AVD最大の特徴は、サービスを利用するユーザーがWindows 7の拡張されたセキュリティ更新プログラムを受けられることです。2020年1月14日に全サポート期間の終了が予告されているWindows 7ですが、AVDではユーザーに3年間のセキュリティ更新プログラムを提供しています。そのため、Windows 7を利用しており、アプリケーションをすぐに刷新できない企業にとってAVDはWindows 7延命の選択肢になります。
<機能面>
Horizon Cloud on Microsoft Azureは日本語化されたGUIベースの管理ツールを提供しています。それに対し、AVDの管理操作はPowerShellに限られているので、機能面で言えばやはりHorizon Cloud on Microsoft Azureに分があります。また、AVDでは一部の日本リージョンが使用できないなどの制限もあります。今後、AVDは時間をかけてGUI対応や日本全リージョン対応などに着手していくでしょうが、機能面だけに着目するとHorizon Cloud on Microsoft Azureの方が使いやすいと感じることが多いので、その点に注意しましょう。
AVDはMicrosoft 365に最適化されている
いかがでしょうか?本稿ではAVDの概要およびHorizon Cloud on Microsoft Azureとの違いを解説しました。最後に、AVDはMicrosoft 365に最適化されたDaaSであり、AVDとMicrosoft 365を利用することでMicrosoftのデータセンター間にある高速バックボーンが使用されます。従って、従来に比べてMicrosoft 365の利用が快適になると期待でき、コミュニケーション効率のアップが見込めます。
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